裏返りの聖戦③
「シュウが戦う気ならしかたないわね。それにあたしまで粛清されるような終末はいらないし」
海上にいるかのように揺蕩う鳳谷アリアを前に、夢城真樹は両手を組み、目を閉じて胸に手を当てた。
「同感やな。とりあえずこいつらの終末はうちの望む終末やなさそうやし」
そう言って、福地聖音は目を閉じて両手を広げ、深呼吸をした。
「アリアの相手はあたし達に任せて」
「うちが倒したるわ」
二人がそう言った次の瞬間、聖音の身体が白く発光した。
真樹の身体はその聖音の光を吸収し、人形に漆黒の影となる。
聖音が発光を止めた時、そこには石膏で作った仮面のような無機質な顔をした、胴を羽毛で覆われた者が現れた。
右半身は緑、左半身は白く染まり、左右非対称の身体。
背中の翼を広げ、右手に持った剣を高く掲げた。
「私は人の情を護る者。人々は私を『ガブリエル』と名付けた」
福地聖音は今の世界で、ガブリエルと名付けられた者へと姿を変えた。
聖音の発光が収まると、夢城真樹も漆黒の影からその姿を現した。
カットされた宝石のように硬く冷たい印象を持つ身体。
頭部はブリリアントカットにされたダイヤモンドの形。
そして体の右半身は赤く煌めくルビーのようであり、左半身は黒くブラックダイヤモンドを思わせる容姿。
「妾は世の理を護る者。世人は、妾を『リリス』と呼んだ」
夢城真樹は今の世界で、リリスと呼ばれる者へと姿を変えた。
「小賢しい。所詮は天帝の創造物。大人しく終末で粛清されるが良い」
アリアは大波が轟くような音を立て、高く船首を持ち上げた。
◇
「あの船はあの二人に任せるとして、貴様は私と先導者が相手をすることにしよう。貴様達の言う終末は私が目指す新世界とは程遠い」
正岡が姿を変えた、醜悪な「終末を監視する者」を前に贄村囚が言った。
「愚かな。創造物が己を弁えず、これほどまでに思い上がるとは。天帝が思し嘆かれるのもよくわかる。我々の手でお前達が粛清されるは必定」
正岡の両顔の声が共に響く。
「まさか神と悪魔、それぞれの先導者が力を合わせて戦うことになるなんてね」
緑門莉沙が呆れたように言った。
「世の中って、ほんとに何が起こるかわからないものね」
それに呼応するように、砌百瀬が苦笑しながら言った。
「面倒なことに巻き込まれたもんだ。だが、みすみす黙ってこいつらに消されるのは俺らしくないからな」
鬼童院戒が頭を掻きながら言った。
「この世界を消そうだなんて、それが人の幸せとは思いません。いまのわたくしの心は浮世絵の笑般若のように、貴方がたを嘲笑っております」
南善寺小咲芽が正岡に鋭い眼差しを向けて言った。
「わたしは今度こそ自分を変える!」
天象舞が力強い声で言った。
そして人間の先導者達は、それぞれに与えられた奇能を発動させた。
それを見た終末を監視する者は、その醜い姿を小刻みに振動させていた。




