裏返りの聖戦②
「さあ、おまえ達皆、自らの欲に耽り、夢想に沈むがよい『トラシュロスの狂気』」
贄村囚達の目の前に現れた不気味で巨大な帆船。
「これが……、鳳谷アリアの奇能」
緑門莉沙は目を見張った。
「大きい……」
砌百瀬が思わず呟く。
「アリア一人に負担をかけるわけにはいけません。僕も貴方がたに力の違いを教えましょうか」
正岡が指を鳴らす。
すると、たちまち正岡の顔が泡が立つように凹凸と歪み始めた。
彼の銀縁眼鏡が顔から落ちる。
次第にその顔が膨らみ、彼の身体を押し潰すほど巨大化した。
異様。
その場に現れた顔だけの物体は、まさに異様にして異形のもの。
生気のない灰色の顔が左右に二つある。
右の顔は高速で瞬きと舌の出し入れを繰り返していた。
そして左の顔は眼球が垂れ下がり、ヨーヨーのように上がっては下がるをその両目で交互に繰り返していた。
また、開いた口からは涎が止めどもなく流れている。
あまりに醜悪な正岡の姿。
「なんだ、こいつぁ……」
鬼童院戒が驚きの声を上げ、身構える。
「なんて不気味……」
南善寺小咲芽が戦慄し息を飲む。
「我は『終末を監視する者』。お前達が終末を起こす気がないのなら、我々がこの手でお前達全員を粛清し、終末を引き起こしましょう。そして、この世界を無に帰し、天帝がまた新世界を創られる。それこそ天帝のご意思ですから」
耳の奥が掻き回されるような正岡の悍しい声が響く。
「昼から夜に、夜から昼になるように、時間の経過と共に性質が逆となるものもある。本来は終末を起こす為に戦うはずの私達が、終末を止める為に戦う羽目になるとはな。裏返った聖戦か」
贄村が言った。
神も悪魔も、それぞれの新世界を求め終末を望んでいた全員が、正岡達の終末を止める為、異形の者と戦うことを決意した。




