終末の正体⑤
贄村囚達が学園祭実行委員会室で正岡達と対峙している時、キャンパスの中庭では、福地清音率いる神の支持者と、夢城真樹が率いる悪魔の支持者が抗争を続けていた。
荒ぶる聖音の支持者の群衆の中をかき分け、南善寺小咲芽は聖音の元へ急ぐ。
「聖音お姉さま!」
野外ステージの上で指揮を取る聖音に小咲芽は下から呼びかけた。
「あっ、小咲芽ちゃん! 来てくれたんや! これで百人力やで。新世界創世に向けて一気に攻め立てるで!」
聖音が小咲芽にガッツポーズを見せた。
「お姉さま、すぐにこの争いを止めてください!」
「えっ、なんやて!?」
聖音が怪訝そうな表情を見せる。
「違うんです! これは罠なんです! たとえ勝っても新世界なんて無いんです!」
戸惑う聖音に、小咲芽は周囲の喚声に負けないよう、可愛らしい声を精一杯張り上げて訴えた。
◇
一方、悪魔側の支持者陣営では、鬼童院戒が群衆をかき分け、夢城真樹の元へと急いでいた。
道中、彼がふと目をやると、キャンパス内に植えてある大木の陰で二人の女子が震えていた。
「ねぇ笑実ちゃん、わたし達どうなるの? なんで学園祭がこんなことになるの?」
深窓の佳人風の女子が震えた声で言う。
「やっぱりまきちゃんが不思研の部員だから、わたし達、悪魔の支持者になるのかな。向こうの人に消されちゃうよ、部長」
もう一人も怯えた表情で言った。
二人は抱き合って「うぇーん、怖いよー!」と嘆いていた。
この期に及んで、無様な二人だと思いながらも、真樹のいる場所を目指す。
真樹も聖音と同じく、学園祭用に設営された野外ステージの上で指揮を取っていた。
「おーい、真樹の嬢ちゃんよ!」
鬼童院は呼びかける。
「おぉ、鬼童院さん、来てくれたのね! さあ、一気に神の連中を滅ぼして新世界を創世するわよ!」
真樹はピースサインを見せる。
「違うんだ、嬢ちゃん! いますぐこの争いを止めろ!」
「え?」
「今すぐ止めるんだ!」
「本気なの?」
真樹は怪訝そうな表情を見せる。
「本気だ本気! こりゃ天帝って連中の罠なんだ!」
鬼童院が真樹に真相を伝えようとする。
「命賭けたの命を! 勝負よ、この場は」
真樹が鬼童院に怒気を込めた声で言った。
「はぁ? ……言ってる意味がわからんが、いつまで続けても無駄だ、これを!」
「だったらぶち破りなさいよ! なんであたしにやらせるのよ」
「だから、止めにきたんじゃねぇか。さっきから何言ってるのかわからんぞ!」
「悪魔も先導者もないわよ。遠慮されたら困るわよ。なんで遠慮するのよ。力でやんなさいよ、力で」
「遠慮なんかしてねーけど、そう言うなら力ずくで止めてやる!」
鬼童院はステージを上がろうとした。
「待って待って! 待って!」
真樹が慌てて制止する。
「嬢ちゃんとは会話が噛み合わん! とにかく、争いを止めてすぐに学園祭実行委員会室へ行くんだ。そこへ行きゃ全てわかる!」
鬼童院は周囲の喚声に負けないよう大声で言った。
「学園祭実行委員会室へ行けばいいのね。オッケー。あたしは何も言わないわよ、もう! 一緒に行くのよ、その代わり!」
真樹は鬼童院を力強い視線で見ていた。
伝えたいことは伝えたものの、鬼童院は以前からこの子、いや、この小悪魔は変な奴だと思っていたがやっぱり変な奴だと、気疲れが出て脱力した。