終末の気配⑥
講義終了後、緑門莉沙はいつも通り、大学近くの哲の森公園でパルクールの練習に打ち込んでいた。
秋の夕暮れ、福地聖音と夢城真樹、それぞれを神と悪魔に準えて支持を叫ぶデモの声が、鍛錬中もずっと耳に届く。
(……うるさいな。もしかして、こんなのが終末なの?)
今の世間の雰囲気を訝しく思いながらも、そんな街から独りはぐれ、莉沙は独り黙々と懸垂を続けた。
「すごい! そんなに懸垂の数こなせるなんて。でもこんなことしてていいの?」
莉沙に話しかける声がする。
鉄棒にぶらさがりながら、声の方へ目をやると、以前に出会ったアイドル、皿井菊美が微笑みながら立っていた。
莉沙は体を前後に揺さぶり、勢いをつけて鉄棒から飛び降りる。
「わたし、ああいうの興味ないから」
「興味ないって、あなた終末の当事者でしょ」
「……やっぱりこれって、終末の始まりなの?」
莉沙が訊く。
菊美は慌てて口を両手で押さる仕草をした。
「まあいいけど。ところで何の用? あなた一応、人気アイドルなんでしょ。なんでこんなとこにいるのさ。暇なの?」
莉沙は早くトレーニングに戻りたかった為、冷淡に訊く。
「暇じゃないわよ。忙しい中をあなたのために抜け出してきたんだから。用件は砌百瀬の件よ。あの子にやられたの忘れたの?」
菊美は腰に手を当て、頬を膨らませた。
「……別に忘れてないけど」
「いよいよ、あのときの復讐を果たす時が来たわよ」
菊美は嬉しそうに話す。
「……いつ?」
「明導大学の学園祭の日、お昼の12時に以前百瀬と戦った、あの多目的室へ行ってちょうだい。もちろん、あたしもあなたの手助けをしに行くわ」
菊美はウインクした。
「……別に手助けいらないけど」
莉沙は浮かれた感じの菊美に対し、素っ気なく返した。
「あら、そう? でもあなたに負けてもらいたくないから当日、あたしもそこへ行くわ」
莉沙に拒否されても、菊美は微笑んだままだ。
「……好きにすれば?」
菊美の話に訝しさを感じながらも、莉沙は彼女を早く追い返し、パルクールの練習に戻ろうと思った。




