人生相談所の男
夢城真樹は「サバト人生相談所」へと足を速めた。
大通りから外れた路地裏の廃ビル。
薄汚れ、壁には所々ひび割れがある。
「サバト人生相談所」はそこにある。
真樹とその所長、贄村囚が終末後の世界に向けて準備を進める拠点。
エレベーターは無いので、薄暗く冷気漂う階段を駆け足で三階まで上がり、相談所の扉を開いた。
「シュウ、大変! 今日、学校でね……」
真樹はそう言いかけると、室内に見慣れない人物がいることに気づいた。
その人物が真樹の声に反応して振り向く。
ベージュのスーツを着こなし、ゴールドの長髪にパーマを当てた男だった。
「貴様の部下のご帰還だ」
贄村にその男は言った。
贄村は椅子に座ったまま、大机に肘をつき、指を組んだ手に顎を乗せて、不敵に笑っている。
真樹が訝しげに二人の様子を見ていると、男は贄村の方へ向き直り言った。
「こんな薄暗いところに居を構えるとは……、貴様らはコウモリか? 似合いだな」
それを聞いた贄村は、とくに反応することも表情を崩すこともなかった。
「貴様達の誤った終末論を決して広めるわけにはいかない。情深き者だけで構成される終末後の新世界を我々が創る」
「貴様達の甘い口車に乗せられ、つまらぬ情を貪ったせいで人間は堕落した。終末後の世界は理に従う人間だけで構成された世界にしなくてはならない」
「ほざけ。お前達の企みを阻止するため、私達もこの街を拠点とさせてもらう。お前等の命も終末までだ。覚悟しておくんだな」
そう贄村達に告げると、その白スーツの男は真樹を一瞥し、僅かに微笑すると室内から去って行った。
「誰、あれ?」
真樹が贄村に尋ねる。
「……天園司。人間が神と呼ぶ者だ」
「えっ、あれが神……、ってそうそう、それ! あたしの学校にも同じこと言う奴が現れたのよ。何だか焼きそばみたいな頭した関西弁の女で!」
「おそらく奴の部下だろう。真樹がいることを知り、我々の邪魔をする目的で送り込んできたのだ」
表情を崩さぬ泰然とした贄村を見て、真樹もニヤリと笑う。
寧ろ福地聖音との争いに胸を踊らせた。