悪魔の仕掛け①
夢城真樹は講義終了後、大学の最寄り駅近くのカフェに緑門莉沙を呼び出した。
「そういえばさ、学校で話題になってんだけど、福地聖音の会見に乗り込んでいって一悶着あったらしいじゃない。まきちゃん、キレたの?」
莉沙が頬杖をつきながらアイスコーヒーを吸う。
「キレちゃいないですわよ」
真樹はエクレアを頬張りながら、微笑んで答えた。
「あたし、キレさせたら大したものですわよ。あたしキレさせたら、あの会見場から生きて出してないですわよ、マジで」
真樹は余裕の表情で、もぐもぐと口を動かしている。
「そう。まあ、別にいいんだけど。でもさ、わたしから見てもまきちゃんって見た目可愛いから、マジで優勝狙えんじゃない?」
「皆さん、そう言いますわ」
真樹は得意気に答える。
「……いや、そこはちょっと謙遜しようよ。相変わらずだね」
莉沙は呆れた顔を見せた。
「莉沙先輩だって、白のティーシャツにモスグリーンのカーゴパンツと、ボーイッシュな格好は相変わらずですわね。よく言えばカッコいい。悪く言えば色気がない」
「わたし、動きやすさ重視だし」
「ところでそんな先輩に、先導者としてやって欲しいことがあるんですけど」
真樹が口の周りのチョコレートとクリームをナプキンで拭きながら言った。
「やって欲しいこと? パルクールの大会があるから練習に時間を割きたいんだけど?」
莉沙は明らかに嫌そうな脱力した声で答えた。
「パルクールなんて終末後の新世界でもできますわよ。実は会って欲しい人がいるんですけども、その人に協力して欲しいのですわ」
「……誰?」
「先輩と同じあたし達、悪魔側の先導者ですわ。鬼童院戒って言う人なんですけど」
「……そう言えば、わたし以外の先導者って誰も会ったことなかったな。他にいたんだ」
「いますわよ。大学にも。天象舞ちゃんって子が」
「ふぅん、学校にもいたんだ……って、もしかしてあの演劇部の行方不明の子って、その天象なんとかって子が消した?」
「そうですわよ」
「呆れた。わたしにあんまり騒ぎを起こすなって言っときながら、なんで学校でやらせるのさ」
「そのためにあの子に奇能を与えたから、しかたなかったんですわよ」
莉沙は冷淡な目つきで真樹を見ながら、ストローをグラスの中でぐるぐる回す。
溶けかけの氷がカラカラと涼しげな音を鳴らした。
「……乗り気しない」
「まあまあ、新世界創世に向けてあたし達に協力するって約束で、先輩に奇能を与えたのですから。それに契約書も交わしてますわ」
「……どうすればいいの?」
「ここから二駅先の垣屋駅をちょっと北に行ったところに、元骨島鉄工所だった廃工場がありますわ。今日の夕方6時にそこへ行ってくださいな」
「え、今日なの? 6時ってもうすぐじゃん」
莉沙は眉間に皺を寄せ「……地図、あるの?」と怠そうに尋ねる。
「地図は……、スマホでググって」
悪びれる様子もなく、ニコニコ微笑んでいる真樹を見て、莉沙はストローを噛みながら残りのアイスコーヒーを吸い上げ、グラスを空にした。