会見場の騒乱
今日は福地聖音が、通う大学で行われるコンテスト、ミス明導への参加表明会見を行う日である。
講義室の一室が会見場。
今日の会見は、学園祭実行委員である正岡が全て設えてくれた。
会見へは聖音一人で臨む。
「本日はお忙しい中、うちのミス明導エントリー表明会見へお集まりくださり、ありがとうございます。うちのミスコンに対する考えや、皆さんに伝えたいことを話していきたいと思います」
聖音は自校のみならず、他校の新聞部の人間まで集めて会見を開いた。
「うちは初め、女性をランク付けするようなミスコンには否定的で、参加するつもりはありませんでした」
室内にまばらなシャッター音が響く。
「でもこの明導大学内で、不思議研究会に所属する2年生、夢城真樹という女が魅力的やという話が流れていると聞きました。それは大間違いです。あれは性格が歪んだとんでもない悪女なんです。よく見ると外見も大したことありません。そのような誤った噂をミスキャンパスと言う公の場で、きちんと正そうと思いました。ただ、その肝心の夢城真樹本人が、口では自分のことを可愛いと自賛しておきながら、公の場でうちと比較されることに恐れをなして不参加を決めたのです」
乾いたシャッター音が響く中、聖音は熱弁をふるう。
「ああいう口先だけで中身の伴わない人間がのさばると世界はよくなりません。人間に大切なのは誠実さです。そのため、うちがミス明導で優勝したあかつきには……」
聖音の話の途中、講義室の扉が勢いよく開く音が響いた。
全員が一斉にそちらへ視線を向ける。
そこには真樹が立っていた。
真樹の手には掲示板に貼られていた学生新聞が握られている。
やはり真樹は来た……、聖音は内心ほくそ笑んだ。
聖音と砌百瀬が考えた策に、真樹はまんまと乗ってしまったのである。
真樹は周囲の視線を意に介さず、体から怒りを立ち上らせながら、まっすぐ聖音へと向かった。
二人が机を挟み睨み合う。
会見場のいる人間全員が、状況が掴めず戸惑っている様子だ。
しかしスクープになりそうな雰囲気に、会見場の人間は戸惑いながらも、シャッター音を頻繁に鳴らしていた。
周囲が固唾を飲んで見守る中、口火を切ったのは真樹だった。
「あなたこれなによ? 何がやりたいのよ! 紙面飾って!」
真樹の怒声が響いた。
怒りの収まらない真樹は続ける。
「なにがやりたいのか、はっきり言ってやんなさいよ。噛みつきたいのか、噛みつきたくないのか、どっちなのよ、コラ!」
これは聖音自ら開いた会見。
真樹にこれほど言われ、聖音も黙っているわけにはいかなかった。
彼女も真樹に向け怒鳴り声を上げた。
「何がコラや、アホンダラ!」
真樹も反射的に応酬する。
「何コラ!タココラ!」
二人の罵声が室内に轟いた。
「アンタ、うちに勝つ自信ないんやろ、アホが」
「あなたいま言ったわね」
「ああ、言ったで」
「吐いた唾飲み込むんじゃないわよ」
「そのまんまやコラ! なあ、うちを舐めるやないでアホ」
二人は緊迫した状況で互いに睨み続ける。
「よし、わかったわ、それだけよ」
真樹は小さく頷いた。
そのまま、聖音に背を向け会見場から去ろうとする。
だが、途中で振り向き、さらに聖音へと言葉を続けた。
「あなたいま言った言葉飲み込むんじゃないわよ。本当よ、本当よ? あたしに噛みつくんならしっかり噛みつきなさいよ。わかったわね」
「アンタにわかったわね言われる筋合いはないんや、コラ」
真樹はそれ以上何も言わず、シャッター音を浴びながら、会見場から出て行ってしまった。
実行委員の正岡が無言で歩く真樹の後を追いかけ、学舎の外に出たところで、声を掛ける。
「夢城さん、本当にミス明導にエントリーしていただけるんですか?」
正岡は尋ねた。
「時間かかるわよ」
と真樹はフフッと不敵な笑みを見せて、止めてあった錆びた自転車に乗り、キャンパス内を走って行った。