暗躍の二人
鏡原みゆりが仮想世界、メタアースの拠点である廃工場の地下空間に、知り合った小学生、高梨涼太を連れ込んでいる間、外出しているケロッキーはある人物と人気の無い公園で会っていた。
「どうっすか? 街の様子は」
ケロッキーは一緒にベンチに座っている女性に訊く。
「ゆっくりと、でも順調にメタアースと同化していっているみたいね」
ケロッキーの隣にいる夢城真樹と瓜二つな女性、皿井菊美が答えた。
「それは良かったっす。こっちも生贄になるちょうどいい人間を見つけたっすよ。後はいまのこの世界で満足している者と、この世界に絶望している者を対立させて終末を引き起こし、いまの世界を粛清するだけ」
「今度こそ、成功すると良いけど……」
菊美が微笑みながら言った。
「成功すると良いけど……? 他の護法者が無能だったせいで、わざわざこのボクが手を下す羽目になったんすよ。失敗するわけないじゃないっすか。バカにしてるんすか?」
「……ごめんなさい」
眉間に皺を寄せたケロッキーに、菊美は身を固くして小さく頭を下げ謝罪した。
「ようやく天帝のご意思どおりに事が運ぶんすよ。そもそも天帝がお創りになったわけではない『金』なんてモノを価値があると崇めている人間なんて、それこそ無価値なんだから。さっさと滅ぼして、新たに価値ある世界を創り直さなきゃ」
ケロッキーは手に持ったチルドカップコーヒーにストロー差し、吸った。
「あたしも中間者にして頂いたおかげで、次の新世界でも存在できるわ」
菊美は礼を述べる。
「釘を刺しておくけど、それもキミの働き次第っすよ。神と悪魔……、名前は贄村囚と天園司だったっけ? 奴らは天帝のご意思に背き、自らが望む新世界を創ろうとしてる。あいつらを争わせて終末を起こさせるのがキミの役目なんだから。しっかりとそれを果たしてもらうっすよ。因みにキミの姉を粛清することになるかもだけど、大丈夫っすか?」
ケロッキーは訊いた。
「……姉だから、なんて情はあたしにはないわ」
菊美はまっすぐ前を見て答える。
「それならいいっすけど。まあ、とにかくこの世界にある大きな欠陥、『金』という自らが創り上げた幻想こそ、言わば人間の弱点。そこを突けばこの世界なんて簡単に滅びるっす」
ケロッキーは再度、コーヒーに口をつける。
「……ええ」
菊美はケロッキーのその意見に賛同の意味を込め、また小さく頭を下げた。
ケロッキーはカップ内の残りのコーヒーを全て吸い込むと、満足そうに息を吐いた。