女王の約束②
「あっ、みゆりお姉ちゃん!」
グレーのパーカーを着た鏡原みゆりを見るなり、駅にいた高梨涼太は嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。
「ごめん、待たせた?」
メイクや着替えに思いの外時間が掛かり、涼太の方が先に駅へ着いてしまったようだ。
「ううん、大丈夫!」
「そっか。じゃ、メタアースしにわたしの家に行こっか?」
「やった!」
涼太は喜んだ。
みゆりは涼太と並んで歩き、廃工場へと年若い彼を連れて行く。
垣屋駅周辺は民家が立ち並ぶ地域なので人通りは少ない。
歳の離れた組み合わせだが、人に見られたとしても姉弟に見られるので変には思われないだろう。
道中、涼太は楽しそうに学校での出来事や児童館での出来事を、みゆりに饒舌に話した。
「それで、児童館に新しく大学生のきよね先生とまき先生が来てさ。この二人同じ大学で仲が悪いのに面白い人でさ」
「へぇ」
「この間なんて紙芝居でまき先生が作った紙芝居が、実はこどもが見たらダメなやつで、なんかだんちづまって人がお父さんのいない間に他の男の人と愛の地獄におちる話しらしくて。それでそんな紙芝居作るなってきよね先生が怒って。でもまき先生は平気そうに言い返して」
「??? よくわかんないけどなんか凄そう。でも児童館って楽しそうだね。わたし、そういうとこ行ったことないから」
涼太の話の内容はよくわからず光景が目に浮かばなかったが、自分に楽しそうに話す彼を見ていると、みゆりは慕われているようで、涼太と一緒に過ごす時間は彼女とっても心地良いものだった。
「うん、児童館楽しいよ! だからみゆりお姉ちゃんも児童館で働いたら?」
「んー、そうだね。まぁ考えとく。あ、ここ……」
涼太と話している間にメタアースの拠点である廃工場に着いた。
「えっ、お姉ちゃん、ここに一人で住んでるの?」
「えっ? うん、まぁ……」
「なんかお化け屋敷みたい」
涼太が怖がるかと思ったが、彼は廃工場を興味深く見回していて、特に怖気付いている様子はなかった。
みゆりは廃工場奥の地下へ下りる階段へと涼太を案内する。
「一応、ここが玄関……になるのかな。狭いから気をつけて」
「うん!」
カツンカツンと金属音を鳴らし、二人は地下へ下りてゆく。
「えっ! ここがお姉ちゃんの家!? うわぁ! すごい!」
地下にあった地上の廃工場とは対照的な、明るくハイテクノロジーな空間を目にした涼太は、驚きの声を上げた。