ホテルでの結束
自由の世界を目指す影鳥智奈、皇廻、鬼童院戒の三人は、智奈のテントではなく鬼童院が現在、居所にしているホテルの一室に集まっていた。
そこで智奈はノートパソコンを開き、仮想世界メタアースへとアクセスし、自らのアバターでライブを行なっていた。
「すごいぜ、智奈! おまえのファンが次々とメタアースに登録して、しかもケロコインで大量の投げ銭してくれてるぜ!」
メタアース用のゴーグル付きヘッドギアを被った廻は、人気ライバーである智奈が自由の世界創世の為に行ったアバターライブでの投げ銭の金額に歓喜の声を上げた。
「それだけ多くの人が今の社会に息苦しさを感じて自由を求めているのさ」
智奈はそう言って、ノートパソコンを操作している。
「自分の好きなライバーに、汗水流して働き稼いだ金を惜しみなくせっせと渡す。それ自体を疑うことなく。疑ったりはしないんだねぇ。まあ、疑えば自分のやってきたこと、縋ってきたものが崩れちまうからな。そりゃ怖いわな。そしてその感情につけこむ俺達。まるでカルト宗教だねぇ」
ラウンド型サングラスをかけた鬼童院が、部屋の壁に凭れ掛かり、缶コーヒーを飲みながら言った。
「なんだと、オッサン!?」
それを聞いた廻は素早くヘッドギアを外し、半笑いで鬼童院を睨みつける。
「止めな! 廻」
智奈がノートパソコンに向き合ったまま制止した。
「けどよ!」
「別に間違っちゃいないさ。事実、宗教みたいなものだからね。でも宗教には良い宗教と悪い宗教がある。あーし達は良い宗教だって思われるようにすればいいだけさ。そのために今は三人が一致団結しなきゃいけないとき」
「オレは智奈と二人でじゅうぶんだと思うんだけど?」
廻は苦々しい表情を崩さない。
「まあ、そういうな、兄ちゃん。俺も役に立つと思うぜ」
そんな廻の怒りに動じず、鬼童院は答えた。
「でも、メタアース内にはあーし達と同じように愛の世界ってのを目指してる本物の宗教もあるようだね。そしてその信者達はあーし達を邪魔だと思ってる」
智奈の言葉を聞いて、廻もパソコンを覗き込んだ。
「なんだよ、これ!?」
廻が怒気を含んだ声を上げる。
ノートパソコンの画面に映っている智奈のSNSのコメント欄には、
『自由の世界創世なんて、マザー舞の真似してて草』
『これってマザー舞のことだと誤解する人が出てきますよね? 真似するの止めてもらえませんか?』
『バズりたいからってマザー舞パクるの、マジ恥ずいから止めてw』
などという、智奈達を否定し攻撃する辛辣なコメントがいくつも並んでいた。