幼稚な争い①
敵対する福地聖音が働く児童館で、共に指導員としてアルバイトをすることになった夢城真樹だが、お互いに何とか相手よりも子どもに好かれようと、不毛で幼稚な争いを繰り広げていた。
「きよねせんせー、描いた絵見て〜」
女児が聖音に話しかける。
「うわぁ、りっちゃん上手やね! アニメの絵にも負けてへんで。この女の子なんかすごい可愛く描けてるやん!」
「うん、女の子かわいく描けた!」
「りっちゃんは将来は漫画家さんかな?」
「うん、わたし漫画家になりたい!」
子どもは満面の笑みだ。
その笑顔を見た聖音はチラッと真樹の方を一瞥し、北叟笑んだ。
彼女達の様子を見て、真樹は眉間に皺を寄せ忌々しい表情をする。
そんな真樹にも別の女児が話しかけてきた。
「まきせんせー、わたしの描いた絵見て〜」
「まぁ、みさきちゃん上手な絵ね! カンディンスキーの抽象画にも負けてないわよ。このタヌキなんてすごく可愛く描けてるわ」
「せんせー、それ、ねこ!」
「そう、これは猫ね。みさきちゃんは将来は銭湯絵師さんかな?」
「なぁに、それ?」
首を傾げる子どもを見た真樹は、額に脂汗を滲ませながらチラッと聖音を一瞥し、作り笑いを浮かべた。
その時の意地が悪そうな聖音の嘲笑に、真樹は一層怒りを滾らせる。
「聖音さん、真樹さん」
人の知らないところで勝手に競い合っている二人に、先輩指導員が声をかけてきた。
「はい、何でしょう?」
二人で声を揃え返事をする。
「お二人にお願いがあるんだけど。子ども達に紙芝居を作ってあげてもらいたいのよ」
「紙芝居……、ですか?」
聖音が訊く。
「新しく入った指導員が子ども達と距離を縮めるには良いじゃない? お二人が物語を話して聞かせてあげたら、きっと子ども達が喜ぶと思うの。お願いしていいかしら?」
先輩の指示に聖音は笑顔で頷いた。
「任せてください! きっと子ども達が喜ぶものを作ってみせます。まあ、どっちの紙芝居が喜んでもらえるか、もう答えは出てるようなものですけど」
聖音はニヤつきながら真樹へと視線を送る。
「そのとおり。もう答えは出てるようなものですわね」
真樹もニヤつきながら聖音へと視線を送る。
「わかりやすくて子ども達が楽しめるお話がいいわね。明日にでも来てる子達に向けてお話し会をしましょう。じゃ、お二人任せたわよ」
先輩は紙芝居制作を依頼すると、笑顔で去っていった。
「紙芝居で決着がつきそうやな。子どもは純真な心でどっちが優れてるか本物を見抜く目があるからな。クソ悪魔」
聖音が腕を組む。
「まったく。神がいかにずる賢い悪党か、紙芝居で子ども達にあなたの本質が見透かされるわね。スットコ偽善者」
真樹も腕を組んだ。
二人は顔では笑いながらも互いに視線をぶつけ合っていた。