女王への準備③
クイーンズウィップという名の黄金色の鞭を手に入れた鏡原みゆりは、ケロッキーの指示で街の北側にあるモンスターの森へと向かった。
「けっこーリアルな映像じゃん……」
その森は人が歩く道は整備されているものの道脇は鬱蒼としていて、薄暗い3D空間が恐怖心を煽る。
「モンスターが出てもほんとに大丈夫なんだよね?」
みゆりが念を押すように訊く。
「もちろん。ってか、モンスターって言っても相手はただの絵っすよ?」
「そうだけど……」
「あっ、ほら。前からスライムが」
パソコンのモニターでみゆりと同じ景色を見ているケロッキーが言った。
確かに前方から青くブヨブヨした物体が這ってきている。
「ど、どうしたいいの?」
「手に持ってるコントローラースティックのBボタンを押しながら振ると、鞭でモンスターに攻撃するっすよ」
みゆりは言われた通り、握ったコントローラーを上下に振る。
メタアース内のアバターも鞭をスライムに対し振り下ろした。
「えい、えい! なかなか死なないじゃん、こいつ」
スライムもみゆりのアバターに飛び掛かってくる。
「うわっ、ちょっとなに!?」
みゆりは驚いた。
「みゆりのHPが0になったら、誰かが救助に来るまでアバターが動かなくなるから気をつけてっす」
ケロッキーがあっさりと言う。
「はあ!? そんなの聞いてないんだけど??」
僅かに動揺しながらも、みゆりはスライムに鞭を振り下ろし続ける。
しばらく鞭で叩いているとスライムは動かなくなり消滅した。
「もしかして、わたし倒した?」
みゆりが訊く。
「みゆり、勝ったっすよ! ほら3000円GETって出てる」
みゆりは金銭を手に入れたらしい。
「へぇ、ちょっと驚いたけど、でもこれでお金が稼げるなんてなんか楽しい気がする。ダイエットにもなりそうだし。これならわたしもパパ活しなくて済むじゃん」
「うーん、残念ながらこれはメタアース内では価値のないリアルマネー。これをケロコインに変えないと意味ないっす」
「このお金、リアルの世界で使うことはできないの?」
「それは無理っす」
「なーんだ」
みゆりは当てが外れてがっかりした。
「けど、これからメタアースもリアルの世界と同じように発展していくし、ケロコインは持ってた方が良いっすよ」
「うん」
「おっと、今度はゴブリンが」
前方から小さい人型のモンスターが歩いてくる。
「スライムより強そう」
「じゃあ武器に備わってるスキルを使うといいっすよ。クイーンズウィップには『ハンギング・オブ・ザ・クイーン』ってスキルがあるっす。コントローラーのAボタンを押してみて」
みゆりが言われた通りにすると、スキルの選択アイコンが現れた。
「これを選択っと……」
次の瞬間、鞭が上空に伸びたかと思うと、前方のゴブリンに向けて垂れ下がり、樹木の枝を利用してゴブリンを吊し上げた。
一撃でゴブリンは消滅し、倒したようだ。
「超強いじゃん、これ」
「いや、モンスターがまだ弱いレベルだから。ケロコインで強い武器を買うともっと強いスキルが使えるっすよ」
ゴブリンを倒したみゆりは、今度は1万円を手に入れた。