自由の参戦
一方、自由の新世界を目指す人気ライバー「ちなふきん」こと影鳥智奈は、変わらず放浪のテント暮らしをしていた。
ただ一点、以前と変わったことと言えば、高校生時代に交際していた元恋人である皇廻が、共に自由の世界を目指す名目で智奈のテントに住み着いたことである。
今夜も智奈はとある公園にテントを張って、その中で仰向けに寝転がり、スマートフォンを眺めていた。
そんな彼女のそばでおとなしくコーヒーを飲んでいた廻だったが、そのうちに智奈の黒いシャツに手を伸ばした。
そのまま彼女の胸をゆっくりと円を描くように撫でる。
「……止めてくれないか。いま、あーしはそういう気分じゃないんだ」
智奈がスマホを眺めたまま廻に言う。
「濡れてこない?」
「全然」
彼女から期待した反応と答えが返ってこなかった為、廻は苦笑いを浮かべチェッと舌打ちした。
「それよりさ、廻、これを見てよ」
智奈がスマホの画面を廻に向ける。
「なんだよ?」
「もう一つの世界、メタアースさ」
智奈は身体を起こした。
「ああ、いま流行り始めてる仮想世界ね。それがどうしたんだよ?」
そう言うと、廻はコーヒーカップに口をつけた。
「この世界の唯一の宗教ってのが、神と悪魔を裏切った者同士で手を組んだ連中が立ち上げたものなのさ」
「ああ、天象舞のチームか。俺達も天帝を裏切ったから似た者同士ってとこね」
「それで彼女達もあーしらと同じように、愛の新世界ってのを目指してる」
「神、悪魔、舞達、そして俺達。それぞれのチームが新世界創世に向けて四つ巴戦ってわけか。面白くなってきたかもな」
「だからあーしらも自由の世界の賛同者を増やすために、このメタアースに参戦すべきだと思うんだ。ここなら新世界創世のシミュレーションもできると思う」
「まあ、俺は智奈のやることを全力でサポートするだけだから、それは別にいいんだけどよ。ただ、俺は新しく仲間になった……、名前なんだっけ、確か鬼童院とかっていうオッサン? あれははっきり言ってあんまり好きになれねぇよ。俺と智奈の二人だけでもじゅうぶんやっていけるんじゃないか?」
廻は眉を顰めた。
「新世界の柱となる奇能を持った仲間は多い方がいい。単純な算数さ。それに彼を好きになる必要はない。誰を好きで誰を嫌うか、それも自由じゃないといけないからね。ただ新世界創世に向けては、お互いに協力はしてもらわないと困る。その点だけは厳守してほしい」
自分とは違う智奈の真剣な眼差しを見て、廻は不承不承ながらも「ああ……」と返事をし、再度、冷めたコーヒーを啜った。