悪魔の女
【トゥデイニュース:有名ワォチューバー行方不明に】
『ぽちょむきんという名前でワォチューバーの活動をしている男性が行方不明になっていることがわかりました。ぽちょむきん氏は不謹慎系ワォチューバーとして知られており、先日、哲の森公園近くの事故現場に、ぽちょむきん氏のものと見られる鞄と、献花台の前にはカメラが壊れた状態で発見され……』
夢城真樹は午前中の講義を終え、スマホのニュースをチェックしていた。
記事を読んだ真樹は、学生食堂に向かう前に緑門莉沙に声をかけようと思った。
真樹は莉沙と同じ明導大学に通っていて、莉沙の後輩だ。
小顔で、頭にはお気に入りの赤いベレー帽を乗せている。
「また奇能を使いましたわね」
莉沙を見つけるなり、真樹は用件を切り出した。
「あら、まきちゃん」
「ニュースになってましたわよ。有名ワォチューバーが行方不明って。ほら、莉沙先輩がいつもパルクールの練習してる公園近くの事故現場にカメラが落ちてたみたいで」
莉沙は真樹を一瞥すると、冷淡にぽつりと答えた。
「ウザいスイッチ入ったし。どうせあんな感情的な人、新世界に必要ないから」
「気持ちはわかりますが、あんまり終末前に粛清し過ぎて、騒ぎになっても面倒ですわ。あたしたちの一番の目的は、新世界で生きる理に従う人間を一人でも多く増やすことですわよ」
真樹が微笑みながらそう言うと、莉沙は特に答えることもなく、冷淡な目つきで押し黙っていた。
「それにしても熱心ですわね。夜遅くまでパルクールの練習をするなんて」
「……まきちゃんは、何かスポーツは?」
「あたしは、エクストリームアイロニングを少々」
ふふふと真樹が笑う。
「……なにそれ?」
怪訝な顔で莉沙が尋ねた。
「山の頂上や海の中で、服にアイロンがけするスポーツですわ。大自然の中でかけるアイロンは、それはもう最高ですわよ」
「……やっぱり変わってるね、まきちゃんは」
莉沙はそう言い残すと、真樹の前から去っていった。
真樹も莉沙を追いかけることもなく、歩く彼女の背中を見つめながら溜め息を吐くと、踵を返して、独り学食へと向かった。
夢城真樹、そして彼女のボスにあたる男が、莉沙を新世界の先導者の一人に選び「ストローマン」の能力を与えた、人から悪魔と呼ばれる者。
この明導大学を拠点に、理に従う人間のみで構成される新世界創世を目指す者である。