糸を引く者との戦い③
天帝の護法者、雲手魅華が変化した蜘蛛に乗った人体模型の怪物。
その不気味な容姿の怪物に贄村囚は襲い掛かる。
彼が人体模型に手をかけた瞬間、怪物は突如姿を消した。
贄村の指が空を掴む。
怪物は僅か離れた場所に瞬間移動していた。
「天帝に背く愚かな悪魔よ、糸で絡め取り捕らえて食らってやる」
面食らっている贄村に、人体模型は表情を変えず、手のひらを向け広げた。
その手のひらの中心に開いた穴から、白い糸のようなものが噴射された。
贄村は間一髪、躱す。
振り返ると、噴射された糸は贄村の後方で広がり、異次元空間に蜘蛛の巣を張った。
「6次元の空間にも張り付く蜘蛛の糸。この粘り着く糸に捕らえられたなら、悪魔といえども逃れられぬ」
怪物がそう語る隙にもう一度、贄村は怪物に飛びかかった。
だが、結果は同じであった。
相手を捕らえたかと思えば、瞬間移動で逃げられる。
逆にその隙を突かれ贄村を目掛け、蜘蛛の糸が飛んできた。
その糸は広がり、また空間に二つ目の蜘蛛の巣を張った。
間髪おかず、贄村に三度目の蜘蛛の糸が飛んでくる。
また躱す。
これを幾度か繰り返した。
このままではきりがなく、やがて捕らえられてしまう。
先に瞬間移動をする怪物を捕らえなければならない。
そう思っている間にも、異次元空間に蜘蛛の巣がいくつも張り巡らされていった。
怪物は隙を与えず、蜘蛛の糸を飛ばす。
それが贄村の左腕に命中した。
贄村の腕に糸が粘り着く。
その糸が広がり蜘蛛の巣を形成する前に、贄村は左腕をぐるぐる回しその糸を巻き取った。
贄村の左腕は、わたがしのように蜘蛛の糸で覆われる。
「ほほほ、これでお前の左腕の自由は利かなくなった」
人体模型の怪物は、表情を変えずに笑った。
贄村を怪物の糸が更に襲う。
糸が飛ぶ軌道を読み躱すと、贄村は怪物に接近し、糸を巻き付けた左腕を人体模型へ目掛け振り下ろした。