正義の実行②
雲手魅華のハンドルネーム、ミカリンがリーダーとして率いるBグループは、世直しの為に襲撃対象を探していた。
「あの子なんてどう?」
ミカリンが指さした先には、街中の広場で髪をツインテールにした女が、通行人に向けて歌を歌っている。
「彼女、好きって女性の差別用語を歌詞の中に連発してて、同じ女性なのに無自覚にもほどがあるじゃない? わからせてあげないと」
ミカリンが他のメンバーに賛同を求める。
「そっ、そうだ、まずは同性内での意識を変るのも大事だ!」
「わからなかったらただの生きごみということで」
Bグループのメンバーは互いに頷き合うと、彼女へと近づいていった。
懸命にパフォーマンスをする彼女の足元に置かれたプレートには、
『元イエロースプリング43☆砌百瀬』
と書かれてあった。
とりあえずミカリン達は彼女が歌い終わるのを待つ。
暫くして百瀬は一曲歌い終えると、
「『女の子は「好き」が好きっ!』でした! ありがとうございましたっ!」
大きな声でお礼を言い、観客を装うミカリン達に深く頭を下げた。
「いやー上手上手」
メンバーの一人、無精髭を生やした無職万歳が拍手をしながら百瀬に言う。
「あっ、ありがとうございます! 嬉しいです!」
百瀬は、メンバー達が手にしている金属バットやハンマーに気付いたようで、異様さに戸惑いながらも何度も頭を下げていた。
「でも差別用語の連発はいけないなぁ。お嬢ちゃん?」
無職万歳はニヤリと笑う。
「えっ、差別…‥? どういうことですか?」
百瀬が困惑した表情を見せる。
「その歌のタイトルだよ。タ、イ、ト、ル」
「えっ?? 『女の子は「好き」が好きっ!』がですか……?」
「そうだよ! 好きって言葉、漢字にすると女性を子ども扱いしてるって書くだろうが! 女性を馬鹿にしてることに気付かないのかよ!」
無職万歳は声を荒らげた。
「ええっ! そんな無茶な……! わたし別に女性を子供扱いなんてしてないよっ!」
今度は百瀬が声を荒らげた。
「そういう無自覚さが、どれだけ女性を苦しめてるかわかんないのか! お前、女だろ? 自分が馬鹿にされ差別受けてることに気付けよ!」
「そんなこと思ったことないよ!」
百瀬もムキになって反対する。
「ダメね。こいつ生きごみだわ。やってしまいなさい」
ミカリンはメンバーに襲撃を促した。
「うおぉぉー!」
それを合図にまずは無職万歳が金属バットを振り上げ、百瀬のスピーカーを叩き壊した。
「なにすんのよ!」
「お前が反省しねーからだよ!」
もう一度、バットをスピーカーに振り下ろす。
スピーカーの破片が周囲に激しく飛び散った。
「許さない!」
百瀬は怒りに打ち震えていた。
「姿を見せて! ビートル・イン・ザ・ボックス!」
怒りを露わにする彼女が突如謎の言葉を叫ぶ。
メンバー達はたじろいだ。
すると次の瞬間、メンバーの眼前で信じられないことが起き始めた。