愛の抗議活動②
荒砥翔也は椅子に腰掛け、項垂れていた。
「わかったでしょう? 世の中、いかに愚か者ばかりか」
ミカリンが腕組みをしながら、翔也を諭す。
「私たちの行動に中指を立てるなんて、彼らは社会の正義が理解できないの」
「ミカリンさん、あいつもおそらく……」
サロンメンバーの一人、まるちゃんが訊いた。
「ええ、生きごみね」
「くそっ! こんなにも社会に生きごみが蔓延ってるなんて!」
まるちゃんはそう言って床を強く踏んだ。
「ああいう連中には、どんなに正しいことを説いても無駄よ。もう考えが凝り固まってるから。考えを改めることはないわ」
「じゃあ、生きごみに対して俺達はどうすれば……」
今度は項垂れていた翔也が顔を上げ、ミカリンに訊いた。
「そうね。こんな手段は本心では取りたくないけど、聞かない相手には、やっぱり最後は暴力よ」
その場のメンバー全員が驚いた表情を見せる。
「考えても見て? 平和や平等、多様性を唱える人でも自分と考えの違う人には攻撃的でしょ? それは何故か。力で潰さないと相手にわからせられないことを知っているから。無抵抗主義で変えられるなんて所詮は綺麗事。正義を貫くためには、時には暴力という手段も用いなければいけないのよ」
「でっ、でもそれはマザー舞の万人に対して愛を持つという教えに背くのでは?」
メンバーの一人で、肥満体型のブッチョーが口を開いた。
「あなた達、マザー舞の教えをちゃんと聞いてなかったの? たしかにマザー舞は人間には愛を持って接しなさいとおっしゃった。でも生きごみは人の姿をしてるけどただのごみ。故に人じゃないんだから愛は必要はないとおっしゃっていたわよ」
「なるほど、言われてみればそうだな」
「ごみに愛情なんて必要無いしな」
メンバーそれぞれ同意の言葉を発した。
「それじゃ、社会の生きごみ達を排除するためには、まずわたし達が先頭に立って行動しなくちゃね」
「具体的にどうやって?」
メンバーの一人で、無精髭を生やした無職万歳がミカリンに訊いた。
「またデモを行って、それでもコーヒー飲むのをやめない人間だったり、提供したりする店を私たちで襲うのよ。そんな奴らはごみなんだから躊躇う必要はないわ」
その場に静かな緊張感が走る。
「そっ、それにしてもマザー舞って、いつも社会の本質を突くよね。マザー舞のそういうところが好きで尊敬してるんだ」
メンバーのまるちゃんが天象舞を褒め称えた。
それを聞いたミカリンがため息を吐く。
「はぁ……。あのね、まるちゃん。わたし、好きって言葉も実は嫌いなの。好きって漢字にすると、女を子ども扱いするって書くじゃない? これって女は所詮、恋愛とかに浮かれて子どもと同程度って、女性をとても侮蔑してる言葉だと思う」
ミカリンは再度腕を組み直し、凛々しい目つきで言った。
「ごっ、ごめんなさい。愛の配慮が足りなくて。こういう些細な点に気づかないことが差別を生むんだよな」
まるちゃんはおどおどとミカリンに謝った。
「いいのよ。完璧な人なんていない。間違った考えは改めれば良いのよ。生きごみは改めないけどね。ついでに好きって言葉を撲滅するためにも、この言葉を使う人間も襲っちゃおうよ。肌の色も性別も、全てが平等の愛の新世界のために!」
ミカリンが力強く主張した。
皆が顔を見合わせる。
誰もが世直しの為に社会と戦うことを決意したようだった。
そのメンバーの中でも特に翔也は、生まれつきの気性からか自分の内に湧き溢れる闘志と正義感を抑えることが出来ず、微かに体を震わせていた。