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同志の顔合わせ①

 今日は荒砥翔也あらとしょうやが参加する、天象舞てんしょうまいのサロンメンバーによるオフ会の日。


 主催者のミカリンが開催場所に指定したのは、見た目が上品で、広くオシャレなカフェレストランだった。


 てっきり庶民的な居酒屋で飲み会を想像していた翔也は、洋風の洒落たレストランなど過去に行った記憶が無いので、少し戸惑いがあった。


『当日、お店の前で赤いスカートを穿いているのが私です』


 主催者のミカリンは、そう言っていた。


 日曜日の昼下がり、翔也が約束の時間に開催場所の店へ行くと、確かに赤いタイトスカートを穿いた長い黒髪の女性がいた。


「はじめまして、ミカリンです。あなたはどなたかな?」


 彼女が微笑んだ。


「あの、金シャリっす」


 翔也は会釈をする。


「まあ、お会いできて嬉しいわ。想像してた通り、すごくお優しそうな方」


 いわゆる大人の雰囲気を持つミカリンは艶っぽく笑った。


「いや、そんなことは……」


 翔也は謙遜する。


「さぁ、今日はお互いに有意義な時間を過ごしましょ」


 彼女はそう言って、翔也を優しく店内へと誘った。


 ◇ ◇ ◇


 時間になり、オフ会が開始された。


 本日集まれた参加者は翔也を入れて八名。


 今日は女性はミカリン一人で、残り七名は男性だった。


 サロンでの活発なコメントのイメージとは裏腹に、皆、見た目は何の変哲もない普通の人ばかりだった。


 緊張しているのか、誰も話さない。


「それでは、皆さん、ふだんはハンドルネームなので、まずは自己紹介していきましょうか」


 主催者のミカリンがメンバーに向けて言った。


「はじめまして、まるちゃんです。よろしくお願いします」


「どうも、金属バットマンです。今日を楽しみにしてました」


 一人ひとりが、簡潔に自己紹介してゆく。


 控え目な拍手がその場に鳴る。


「あの、金シャリっす。こういう場には慣れてなくて……よろしくです」


 順番が回ってきた翔也も、頭をかきながら照れ笑いを浮かべて挨拶した。


「じゃあ、最後に私ね。本日の会を主催したミカリンです。どうぞ、宜しくお願いします。私が皆さんに会いたかったのは、ネットの中で共感し合うだけではなく、リアルでもマザー舞の教えを広めていきたかったから。それを行動に示してくれる同志を集いたかったの」


 彼女はそう話を切り出すと、マザー舞に対する思いを次々に熱く語っていった。


 皆、舞のサロンに対する思いは同じ。


 ミカリンの話に賛同して頷いていた。


「この世界にはまだまだ差別が根付いています。マザー舞のもと、皆さんで手を取り合って差別や差別する人を撲滅して、愛の新世界を目指しましょう!」


 ミカリンは小さくガッツポーズをしてみせた。


 自己紹介の中で、一際大きな拍手が起こる。


 このミカリンの話を皮切りに、それぞれのメンバーがいつものサロン内と同じく、日頃、自分達が社会に対して抱いている鬱憤や怒り、不満を、それぞれ口にしはじめた。


 広いテーブルの上にも、パスタや肉料理、ピザ、サラダなど、時間の経過とともにミカリンが選択したコース料理が次々に並んでいく。


 食事が進むにつれ、対話と議論も活発になり、オフ会も盛り上がっていった。


 ミカリンを含め何人かはワインを飲み、アルコールも入っていた。


 ミカリンは誰も否定することなく、メンバーの発言に賛同し激励してくれた。


 皆、この場の雰囲気に馴染んでゆく。


 翔也にとってもこの慣れない店が、居心地の良い空間へと変わっていった。


 心地よい場所で楽しい時間を過ごしていると言うことは、時が過ぎるのも早く感じるもので、翔也が気づくといつの間にかコース料理も終わりに近づいていた。


 食後のデザートの可愛らしいチーズケーキにはコーヒーが付いていた。


 翔也はブラックコーヒーは飲めないので、いつも飲む時と同じように、ミルクと砂糖を入れ、ぐるぐるかき混ぜた。


「……金シャリくん、あなた最低ね」


 混ぜ終えた頃、突然女性の声でそう言われた。


 ミカリンが初めて口にした否定的な言葉。


 何かの聞き間違いかと思い、翔也は彼女の方へ目を向ける。


 視線の先には、口元は笑っているが、厳しい目つきで翔也を見るミカリンの顔があった。


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