悪魔の事情聴取
サバト人生相談所の事務所内で、夢城真樹は狼狽えながら電話をしていた。
「舞ちゃん、一体どういうことなの!?」
神側の先導者である砌百瀬から、悪魔側の先導者、天象舞が神側の先導者二人を誘い新世界を目指そうとしているという話を聞いたからである。
『真樹ちゃん、ごめんなさい。でもわたし、愛による新世界を創りたいの!』
電話口で舞が答える。
「あの二人は神側の先導者だから、きっと冷奴も作れないほど無能よ! 新世界を創ろうにも役に立たないわよ?」
真樹は問い質す。
『そう言った決めつけや差別は良くないと思う。わたし達は人々が対立することないよう無限の多様性を認めて、みんなが平等に生きられる世界を目指すの。それこそが人の幸福、そしてそれができるのは人の愛。わたしはこのことを最近の終末騒動で悟ったの!』
電話の向こうにいる舞の口調に、ますます熱が篭る。
「そりゃあね、あたしだってね、無限の多様性とかで全ての人を認めてあげたいわよ。でもね、残念ながら人間の中にはどーしよーもないのがいるのよ。そう言ったのは取り除かないと悲しい思いをする人がいつまで経っても無くならないの。綺麗事じゃダメなのよ。だからね、あたしは悪魔なのに心を鬼にして……」
『わたしはそれが嫌なの! 取り除くんじゃなくて、それを愛で受け入れるの。そうしないとみんなが幸せになれないの!』
「あ、なーるほど」
『それで全ての人を愛で受け入れて、神だ悪魔だと対立するみたいな排他的な世界をもう終わりにしたい』
「ふむふむ」
『それからわたし達のすることに真樹ちゃん達の手助けは不要よ。なぜなら真樹ちゃんは人ではなく悪魔なので。あくまでも人間の愛の力で新世界を創らないと、人はまた過ちを犯してしまうと思う』
「舞ちゃん達、人間だけでできるって言うの? そんなの難しいわ。今なら相談料、先導者割引して格安であたしも力になるわよ!?」
真樹は舞を繋ぎ止めようとする。
『ううん、大丈夫。贄村さんから頂いたこの奇能を生かして、人間の手で理想の新世界を創るよ。今までありがとうございました。これでお別れになるけど、真樹ちゃんや贄村さんと出会えて良かった。もし出会えてなければ、わたし、今でも周りの空気ばかり読んでびくびく怯える毎日だったと思う。こんな積極的な性格にはなれたのは真樹ちゃん達のおかげ。本当に心から感謝してます』
舞は真樹達への感謝の気持ちで感極まったのか、若干潤いを帯びた声へと変わる。
「あら、そこまで喜んでもらえると嬉しいわね。いえいえ、どういたしまして。こちらこそ益々のご活躍をお祈り申し上げますわ」
舞に感謝され良い気分になった真樹はスマホを持ったままペコペコ頭を下げ、電話を切った。
「シュウ!」
真樹は大机の椅子に腰掛けている、サバト人生相談所の所長、贄村囚の方へと向く。
「どうだった?」
「いやあ、うっかり説得させられてしまったわ」
真樹は笑顔で頭を掻いた。
「バカかね、君は」
贄村は真樹を一瞥すると、ぽつりと言った。
「あたしを説き伏せるとは、相手もなかなか大したものね」
真樹は腕を組み、ひとり頷く。
「君の実力不足なのではないのかね?」
贄村は表情を変えずに、バイトを探しに行った真樹が土産に買ってきた河童の置物の頭を、柔らかい布で撫でるように磨いた。
「あっ、そうだ。莉沙先輩に一緒にバイトやらないか、聞かなきゃ」
真樹は手を打つと、緑門莉沙に電話をかけ始めた。
「何のバイトだ?」
贄村が訊く。
「冒険者カフェっていうちょっと変わったコンカフェよ。なんか楽しそうだから、莉沙先輩もバイト探してたし、誘ってあげようと思って」
真樹はウキウキした感じで、莉沙が電話に出るのを待った。