山道の戦い⑤
贄村囚は両手の爪を伸ばし、山道両側の大木を軸に六重に巻き取られ、輪状になった黒川の中心目掛け急降下する。
左右に腕を広げ、黒川のミミズのような胴体に鋭い爪を食いこませ、そのまま下方へと力強く引き裂いた。
ぶよぶよとした黒川の身体は、贄村の反撃により千切れてゆく。
怪物は瞬く間に十三分割された。
それぞれのパーツが、単独でうねうねと動く。
「無駄だ、贄村。幾つに分かれようが私の身体は順に繋がり元に戻る」
山道に落ちている黒川の首は、贄村の行動に対して高笑いをした。
その黒川の発言通り、切断された箇所が超自然的な力で順に繋がり始める。
その瞬間、贄村はカッと目を見開き、即座に走り出した。
「……し、しまった!」
黒川の首はそう叫ぶと、慌てふためくように激しく蠢いた。
黒川の身体は順次再生してゆく。
だが、十三個にも分割された身体が全て繋がるには、流石に時間が掛かる。
しかも首は最後のパーツ。
黒川も急速に再生しようとするも、贄村は元に戻るまでのタイムラグを利用して、怪物の大元である巨大な心臓の姿をした本体へと向けて疾走し、そして飛びかかった。
雄叫びをあげて、鋭い爪を勢いよく心臓内へ食い込ませる。
そのまま深く内部まで腕を突っ込み、中に納められている黒川の臓器らしきものを掴むと、そのまま雑に抉り出した。
その刹那、黒川の途轍もない悲鳴が、閑静な山中に響き渡った。