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山道の戦い①

 悪魔である贄村囚にえむらしゅうと、毒水ぶすみず家の執事、黒川くろかわは互いに目を逸らさず、閑静な山道で対峙する。


「殺人遺伝子か……。優生思想の是非を問う禁断の思考実験、楽しませてもらったよ」


 贄村が黒川に言った。


 その言葉を聞き、黒川は大口を開けて笑った。


「殺人遺伝子を否定しておいて楽しませてもらった、とはな。まだわからんのか。殺人遺伝子とは、お前達悪魔や奇能きのうを与えられた人間のことをたとえているのだと」


 黒川が贄村を指差す。


「我々が殺人遺伝子……」


 贄村は呟くように言った。


「お前達の粛清能力は人間の平穏な生活にとって脅威。それはいずれ人を殺めると定められた者が存在しているのと変わらぬ。つまり、殺人遺伝子を否定することは自らの存在を否定することと同義。わかるか? お前は世界の秩序を守る為に殺人遺伝子を排除するなどと答えを出したが、その排他的な思想で実は自らの存在を否定したのだ」


 黒川は贄村を見下すように得意げな顔で、さらに話し続ける。


「毒水兄妹を使って慈悲深い私がチャンスを与えてやったのだが、やはり底の浅い馬鹿であったか。お前が視野の広い思考で全ての存在を平等に認める答えを導き出せば、捨てたものではないと、天帝にこの世界の存続を掛け合ってやろうと思っていたのだが」


 黙って黒川の話を聞いていた贄村が口を開く。


「貴様の喩えた殺人遺伝子と我々の奇能とは違いがある。それは我々は本能的ではなく、理性によってその能力を扱うことができるという点だ……」


 贄村がそう言うと、黒川は再び大口を開けて笑った。


「人間の理性! ハッ、そんなものに期待をするのか。どこまで馬鹿なのだ。人間は理性的ではないからこそ、今まで過ちを繰り返してきたのではないか」


 黒川は笑いから一転し、表情に怒りをにじませた。


「天帝は全ての存在が平等である世界をお創りになろうとされた。だがお前のような排他的な者が存在する世界は失敗作であると断言せざるを得ん。自らの存在を否定したのだから、今ここで私が消してやろう」


 黒川がそう言うと直立した彼の足元から、突如、白煙のようなものが立ち上り始めた。


 左右に樹木が立ち並ぶ狭い山道が、瞬く間に白く濁ってゆく。


 贄村は煙の中に姿を隠した黒川へ向かい、身構えた。

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