公園の夜①
「それじゃ今宵も集まってくれた自由を愛する旅人たちへ。明日も先の見えない時間の旅を、型にはまらず気ままに生きて。おやすみなさい」
ちなふきんはリスナーに別れの挨拶して、夜の配信を終えた。
配信用のタブレットを傍に置き、今度はスマホを取り出す。
連絡先をタップし、電話をかけた。
相手はすぐには出ず、暫く呼び出し音が鳴る。
「忙しいの?」
ちなふきんさんは相手が電話に出ると同時に言った。
「あのさ、鬼童院さんに頼みたいことがあるんだけど?」
ちなふきんは夢城真樹に依頼された毒水憲慈の両親の調査について相手に話す。
「受けてくれるかい? ありがとう。悪いけどお願いするよ。なにかわかり次第、あーしに連絡して。それじゃ、いい時間の旅を。おやすみなさい」
相手の男に別れを告げ、電話を切った。
ちなふきんはぐーっと両腕を高く上げて体をほぐすと、就寝前の読書に耽ろうと本へ手を伸ばした。
だが、今夜は昨夜と違い、テント外が騒がしい。
どうも公園で若い男達が騒いでいるようだ。
「なんかここ、テント建ってるし!」
野太い大声が聞こえる。
「ホームレスが暮らしてんじゃね?」
続けて、笑いを交えた高い男の声が聞こえた。
「オマエ、のぞいてみろよ!」
今度は幼い印象の声が耳に届く。
面倒なことになりそうな予感がしたので、機先を制するように、ちなふきんは自ら外へ顔を出した。
「うぉっ!」
騒いでいた男達三人は、ちなふきんの顔を見て驚きの声をあげる。
「マジ!? 女子のホームレス?」
高い声の男が目を丸くして言う。
「あれ? こいつ、ちなふきんじゃね?」
野太い声の男が言った。
「マジ? 真似してる奴じゃね?」
「ねぇねぇ、おねえさん、本物のちなふきん?」
幼い声の男が訊く。
ちなふきんはゆっくり頷くと、ピュイと吹き戻しを吹いた。
「やっぱ本物だぜ!?」
「おー、マジ!? 生で見れた!」
男達は、奇声を上げてはしゃいでいる。
「ねぇねぇ、ちょっと俺も配信に出してよ?」
「てか、テント中に入れて?」
男達はヘラヘラ笑いながら訊いてきた。
「ダメ」
ちなふきんは即答した。
「えー、マジ? ちょっとだけ。どんな暮らししてんのか、見るだけ」
野太い声の男がテントに強引に入ろうとする。
「不法侵入」
ちなふきんは男の手を払い除けた。
それでも男は、広い肩をテントの中へとねじ込もうとしてくる。
「ってか、こうして間近で見ると可愛いよな。ちなふきんって。俺、ショートカットの子、好みなんだけど」
高い声の男がニヤつきながら言った。
「俺、こいつとヤりたい」
続けて、幼い声の男がちなふきんを指さした。
「……前みたく、ヤる?」
野太い声の男が二人に呼びかける。
三人は顔を見合わせ、合図を送り合うように互いに頷いた。