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告知の女

 福地聖音ふくちきよねは焦っていた。


 終末は近い。


 このままでは大多数の人間が粛清されてしまう。


 終末に生き残るのは、他者を気遣う思いやりや優しさを持つ情に厚い人間。


 だが、日々のニュースで目にするのは、慄然とするほどの人間の愚かさ。


 差別、虐待、貧困格差、環境破壊……、その他あらゆる問題はどれをとっても清音にとって嘆かわしいものであった。


 これも人が正論を持て囃し、くだらない理屈ばかりを述べ、社会を窮屈にし情を疎かにした為。


 新世界で救われる人数を増やすには、もっと自分達の教えを広めなくてはならない。


 また、たとえ大多数の人間が粛清されたとしても、終末後の理想の世界を作るためには人手は必要である。


 その上で気がかりなのが、贄村囚にえむらしゅう夢城真樹ゆめしろまき達、悪魔の存在。


 まがい物の終末論を広げ、人々を騙している連中だ。


 人々は奴等を「悪魔」と呼んでいるにもかかわらず、信奉してしまう人間が少なからずいることは、清音達にとって憂慮すべきことであった。


「なあ、ツカサ。準備遅れとん違う?

 うちらの賛同者、もっと増やさなあかんやん。終末まで間もないで」


 聖音が相談所のソファーに深々と腰を埋め、テーブルに置いてあるガラスの器に盛られたチョコレートを口に放り込む。


「気にすることはありません。考え方を変えて、心に余裕を持ちなさい。終末までもう時間がないと思うか、まだ時間があると思うか」


 ここ、サクラメント人生相談所の所長である天園司あまぞのつかさはビルの窓から地上を見下ろしていた。

 下では人間がそれぞれの意思と目的を持って動きまわっている。


「なあ終末って情に従わへん人間が滅びることやろ?」


「そのとおりです」


「ああ、楽しみやわ。情に厚い人だけで創る新世界……。それこそうちらと人間が求めていた理想郷」


そう言って聖音は目を輝かせる。


「それにしても鬱陶しいのは悪魔の連中や。あいつらエセ終末論を広げて、せっせと人集めしてるみたい。ほんまどこででも湧いて出てくるゴキブリみたいな奴らやで」


 聖音は憤る。


「聖音さん、そういうことを言うものではありません」


 天園に諭された。


「あっ、ごめん。神としてちょっと言葉遣いが良くなかったわ……」


「奴らと一緒にするなんて、ゴキブリに失礼です」


「あら、そっちかい」


 聖音は思わずソファーから落ちそうになった。


「それにしても人間があいつらの口車に乗せられて間違ったもん信じたら終末で救われる人が減るわ。なんとしても阻止せんと」


 聖音はソファーから跳ねるように腰を上げ、そしてカバンを肩にかけた。


「やっぱ、考え方変えても心はじっとしてられへんわ。うちはまた先導者の告知する人、探しに行ってきますか」


 そう天園に伝えると、颯爽とドアを開け部屋から出て行った。

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