物憂い朝の部屋
けたたましい目覚まし時計の音が、一瞬にして安息を吹き飛ばす。
薄目の緑門莉沙は、だるい腕を時計に伸ばし、騒音を止めた。
昨夜は、天象舞と南善寺小咲芽に付き合って帰宅した後、ベッドの上で物思いに耽っていたが、いつの間にか眠ってしまったようだ。
スマートフォンの充電も忘れてしまった。
(……またいつもとおんなじ朝か)
莉沙はベッドの上に座り、両手を高く上げ、身体をほぐす。
今日も学校へ行き、講義を受け、終了後に公園でトレーニングをして、それから帰宅し、風呂に入り眠る。
いつもと同じサイクルの生活を送るだろう。
だが昨日会った舞は、神の先導者と恋仲になり同棲を始め、性格も積極的に自己主張する性格へと変化を見せ、一方の小咲芽は、閉鎖的な実家から逃れ、一人で生活を始めバイトもしていた。
二人とも以前と違う日常を手にしている。
周りが変化する中で自分だけが変わらない。
(学校行く準備しなきゃ……)
莉沙は毎日が退屈というわけではない。
やるべきことはある。
だが、こなすべきスケジュールよりも日常を破壊するほどの変化が欲しい。
だから自分は新世界を求めたのかもしれない、莉沙はそう思った。
変化を求めているはずなのに、変わらないし変えられない。
繰り返されるもどかしい毎日。
だが結局、新世界の到来は叶わず、自分はまた以前の日常に取り残されてしまった。
莉沙の心に埋まらない穴が残る。
(ダウナー系の動画にハマるのも、こんな感じからなのかな……)
一人で過ごすことを好む莉沙には、友達がこれといっておらず、また恋人もいない為、変化が起こり得る兆しすら期待できなかった。
(舞の言う通り、彼氏作ったら変われる……?)
ふと舞の言葉が頭に浮かんだ莉沙は、徐に硬い左腕を男性の腕に見立てて、恋人に触られてることをイメージしながら、シャツの上から自分の胸を揉んでみた。
みるみる顔が熱ってくるのがわかる。
そのまましばらく、何と無しに触っていると、その男性のつもりの左腕が、うっすらと緑色に光りだしていることに気づいた。
(……何やってんだろ、わたし)
莉沙は我に返ると、急に自分のやっていることが恥ずかしくなって、頭を激しく左右に振った。
さっさと学校へ行く支度を始めようと、ベッドから腰を上げる。
わかっていたことだが、誰かと付き合おうにも、この人間離れした左腕では恋人との体の触れ合いはできないのだ。
彼氏が作れない理由を思い返すと、なぜか安心する自分がいた。
莉沙は後ろで髪を束ねると、ハムと目玉焼きを乗せたトースト、バナナとレタスのサラダ、それにヨーグルトを用意して食べた。
いつも通りの朝食だった。