流浪の調査②
「ところでアンタ、何しに来たのよ」
砌百瀬が刺々しい声で言う。
「別に用はないけど、久しぶりに見かけたから声をかけたのよ」
夢城真樹は努めて笑顔で言う。
「ふん、どうせ人気が落ちぶれたわたしを笑いに来たんでしょ。笑いたきゃ好きに笑ったらいいわ」
「ゲラゲラ」
「ほんとに笑うな!」
百瀬が怒りを露わにする。
「ややこしいわねぇ」
真樹は困惑した。
「まったくこれだから人情を知らない悪魔は……。さ、わたし、次の場所に向かうから後片付けの邪魔しないでちょうだい」
百瀬は手をひらひらと動かして、真樹を追い払う仕草をした。
「グループ解散になったからって、事務所辞めてひとりでこんなことしてんの? 大変ねぇ」
「ふん、必ずまた終末騒動前の人気を取り戻してやるんだから」
「そんな手間のかかることしてたら、復活するのいつになるかわからないわよ。時代の流行りに乗っからなきゃ」
真樹は百瀬にウインクする。
「何しろってのよ」
「ずばりワォチューバーよ! 今はね、そこで堕ち系っていうのが流行ってるの。知らないの?」
真樹はバイト先で真壁から聞いた話を得意げに話す。
「ああ、ダウナー系ね」
「いえ、堕ち系」
「だから、そういうのをひっくるめてダウナー系っていうの。アンタ知らないの?」
真樹は聞き齧った知識で知ったかぶりをして、却って恥をかいたようだ。
真樹は固まる。
「まあ、ダウナー系はちなふきんがもうすごい人気だし、今からわたしが参入してもって感じね。それにわたし、どちらかと言えばダウナー系というよりエネルギッシュだし」
「ちなふきん? ダラQじゃないの?」
「ダラQも人気らしいね。でも女の子のちなふきんの方がわたしは好きだな」
「どんな子なの、それ?」
「黒のチューリップハットかぶって、全身黒づくめの子。ちなふきんはさすらいのぶらぶら系で悠々自適のテント暮らししてるから、外歩いてたら、運がよけりゃ出会うかもね」
百瀬が荷物をまとめながら、真樹に言った。
「へぇ、そんな人初めて知ったわ。まるでジプシーね。ところで、教えてもらったついでにもうひとつ教えてもらいたいんだけど」
「何よ」
百瀬が真樹の方へ視線を向ける。
「あたしのとこの先導者の鬼童院さんっていう人、どこにいるか知らない?」
「誰それ?」
「ほら、大学で天帝の使者と一緒に戦った……」
「なんでアンタのとこの先導者がどこにいるか私が知ってんのよ」
百瀬が語気を強めて言った。
やっぱり知るわけないか、と真樹は舌をぺろっと出した。