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ハンバーガーショップでの会話②

「意外なとこであの子と会ったね」


 緑門莉沙りょくもんりさ天象舞てんしょうまいはトレーを持って、空いている席へと座った。


「あの子も騒動前と騒動後で生活が変わったみたいですね」


 舞が言う。


 変わってないのはわたしだけか……、そんな思いが莉沙の頭を過った。


「ところでさ、今日は会いたいっていうのはなんの用?」


 サバサバした性格の莉沙は、早々に本題へと入る。


 舞は一拍置いてから緊張した表情で口を開いた。


「あの、莉沙さんは、あれから奇能使ってますか?」


 舞が少し声をひそめながら訊く。


「いや、使ってないけど……」


「よかった……」


 舞の頬が緩んだ。


「それが……どうかしたの?」


「もう奇能を使って人を粛清して欲しくないんです」


 舞が真剣な目つきで言う。


「……えっ、なんで?」


 莉沙は反射的に尋ねた。


「わたし、気づいたんです。奇能って能力は人を選別する能力で、つまりそれは独裁者の力だって……」


 舞は自分の思いを莉沙に話す。


 莉沙はポテトを摘みながら、黙って舞の話を聞いていた。


「この能力に慣れてしまったら、どんどん優越感や万能感に浸ってしまって、その結果、人は驕り高ぶり、歯止めが効かなくなって、安易に自分の気に入らない者は消せってなると思うんです。それって間違いなく独裁者じゃないですか。わたしはみんながそういうふうな人間になって欲しくないんです」


 舞の口調には力がこもっていた。


「そりゃ……、まあね。でもこれって、良い人だけで構成される新世界を作るための能力でしょ。仕方ないんじゃないの?」


「わたしは人を選別できる資格のある人はいないと思うんです。それにもう新世界なんてなかったんだから、この能力は必要ないじゃないですか」


「贄村さんや真樹ちゃんは、新世界創世を諦めてないみたいだけど」


「もし新世界を創ることができるとしても、今の世界でいいじゃないですか。みんなでいまの世界を理想郷のような世界にすれば良いです」


「……なんか舞って神側の先導者みたいだね」


「もう神も悪魔もないです。人が対立するのを見るのは嫌です」


「……うん」


 この舞の意見を贄村囚にえむらしゅう夢城真樹ゆめしろまきが聞いたらなんと答えるのだろう、そんなことが莉沙の頭にふっと浮かんだ。


「カウンターの子にも、このこと伝えておきたいです」


「あの子は神側の先導者だよ。舞のお願い聞くかな」


「聞いてくれますよ。わたしの彼氏も聞いてくれましたから」


「そう言えば、舞の彼氏って神側の先導者だったっけ……」


 莉沙が小さく息を吐く。


「莉沙さんって彼氏、いますか?」


「えっ? いや、いないけど……」


 突然のその質問に、莉沙はドキリとして、思わず目を見開いた。


「思い切って彼氏、作ってみたらどうですか? 彼氏のおかげでわたしも自分の気持ちに素直になれるように変わったし」


「わたし、無愛想だし趣味もトレーニングぐらいしかないつまらない女だから、好きになってくれる人なんていないよ……」


「そんなことないです。莉沙さんはすごく魅力的ですよ。スポーティーでかっこよくて、それでいて綺麗。クールビューティーって感じなのでモテると思います。それに付き合う人ができたら、自分も毎日の生活も変わるんですよ。それこそ、新世界です」


 舞が優しく微笑みかける。


「ふぅん、毎日が変わるか……」


 莉沙は呟くように言うと、シェイクのストローをくわえ、頬杖をついた。

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