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猟犬の女(天象舞)⑥

 合コンの翌日、私はふだん通り学校へ行った。


 講義が終って演劇部の活動前に、私は部室がある棟の人気ないトイレへ郷美を呼び出した。


「なんなの、舞。話って」


 郷美は不機嫌そうな声だった。


「ごめん、すぐ終わるから……」


「てかさー、昨夜のなに、あれ? ひとりわがまま言ってさー。飲み会の空気悪くしないでよ」


 郷美はきつい目で私を見ている。


「せっかく盛り上がってたのに。呼んだ私のせいになるじゃん。まったく舞なんて誘うの止めとけばよかった」


 そう言って舌打ちをした。


 人数が足りないからと自分から頼んでおきながらこの言い草。

 私の体がムズムズする。


「……そう? 実は私も行きたくなかったのよ。あなたたちのような低俗な人間の遊びに付き合うなんて」


 いつもの私なら涙声になるはずだけど、今は自分じゃないぐらい低くはっきりした声で言った。


「えっ?」


 郷美が驚きと苛つきが混じった顔で私を見る。


「あなた達のような人間はどうせ終末に生き残れない。私が粛清してあげる」


「何言っちゃってんの?ってか、今日の舞、なんかいつもと雰囲気違くない?」


 郷美はこの状況でそんなこと言ってる。

 呑気な子。


 トイレにはまだ私と郷美の二人だけ。

 これは神が、いえ、悪魔が与えてくれたチャンス。


「私を変えて、レッドへリング」


 私は郷美を睨みつけてそう唱えた。


 すると、背後から私の背丈を越える、大きな双頭の犬が現れた。


 左右非対称の犬。

 右側の頭はダルメシアンみたいで、左側の頭はダックスフンドみたいな耳の垂れた犬。


 ダルメシアンは赤い目を光らせ、口の脇から長い舌を出してヨダレを滴らせている。

 ダックスフンドの方は両目を閉じたま牙をむき出しにしていた。


 そして私は、その犬にはめられた首輪に繋がる鎖を握っている。


 トイレ内には、魚の燻製のような強い香りが充満していた。


 これが悪魔からもらった力。私の奇能。


「なによ、これ!」


 私の犬を見た郷美はパニックになっている。


 鎖を握っている拳を緩めると、二つの犬の頭は大きな口を開けて郷美に襲いかかった。


 そこから一瞬の出来事。


 二頭は郷美の頭と腹部に噛みつき、郷美をあっという間に飲み込んだ。


 郷美は異次元に消えたみたいに、自分の欠片や痕跡を残すことなく、トイレから姿を消した。


 中は静けさを取り戻す。


 洗面台の鏡に映っているのは、不敵な笑みを浮かべている私だけだった。


 そっとトイレから出て、演劇部へ向かっていると、今度は流衣と出会った。


「あっ、舞、おつかれ。郷美、どこいるか知らない? さっき電話したんだけど、電源が切られてるみたいで繋がんなくて」


「……さあ。知らないわ」


 私は一瞬の沈黙の後、氷のような冷たい声で返事をした。


「マジ、あの子どこ行ったんだろ」


 流衣は小首を傾げて、私のところからパタパタと去っていった。


 流衣、あなたも終末には生き残れないよ。


 いずれ私が粛清してあげる。


 そう、私はあなた達のような人間がいない、理想の新世界を目指して悪魔と契約を交わしたのだから。

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