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崇拝のインフルエンサー③

 夢城真樹ゆめしろまきが声の方へ顔を向けると、男子アルバイトが少しおどおどした感じで真樹を見ていた。


「ああ、真壁まかべさん。短い間でしたがお世話になりました。あたしはあたしを必要としてくれる場所へと旅立ちます」


 真樹は笑顔でお辞儀をした。


「そうですか。寂しいですね。なんかハチャメチャだけど、俺、けっこう夢城さんのこと尊敬してたんですよ」


 そう言うと、真壁という名のバイトは寂しそうな表情を見せた。


「まあ、バイトをクビになったあたしを?」


「なんていうか、常に自分に自信を持ってるっていうか……。お客さんと揉めても、店長にクビって言われても動じない感じだし……」


「確かにあたしは世界一可愛いって、自分に自信がありますわ」


 真樹は胸を張る。


「それが羨ましくて。俺なんか自分に全然自信がなくて……。まあ、これも今まで生きてきて、これといった成功体験がないからだと思うんですけど」


「あら、成功したことないですか?」


「はい。俺、今もラノベ作家目指して、ネットで小説書いてるんですが……」


「まあ、素敵。どんな小説を書いてるの?」


「えっと、ラブコメなんですけど……。でも、毎日頑張って書いてるのに、この小説もいまいち人気が出なくて。フォロワーも少しずつしか増えないし……」


 真壁はボソボソと喋る。


「継続は力なりですわよ。でも手っ取り早く人気になるには、流行りに乗っかってみるのも一計ね」


「じゃあ、異世界ものを書いたほうがいいですかね……」


「もう飽和状態でいまさら、って感じね」


「他に流行ってるものってあります?」


「ズバリ、ウマ娘よ!」


 真樹はビシッと真壁に指を向けた。


「……競馬を題材にした小説ですか?」


「違うわ。ウマ娘が競馬をネタにしたように、真壁さんも真似て誰も参入してない公営ギャンブルをネタにするのよ。例えば競輪なんていいわね。タイトルはシンプルに『チャリ娘』よ!」


「げっ、パクリ……!」


「パクリとは失礼な。言うならオマージュとかパロディね。それでね、馬を擬人化するように競輪選手を擬人化するのよ」


「あの、元から人間なんですが……」


「主人公は佐藤新太朗子、16歳の女の子。憧れのバンク学園に入学して、いつか大きなレースで優勝してアイドルの頂点に立つのが夢の、いたいけな少女よ」


「……そんな女の子、ウケるでしょうか?」


「大丈夫。汗と涙と友情を織り交ぜて書くのよ。登場キャラも多いし、面白くなること請け合いですわ」


 真樹はサムズアップで応える。


「はあ……」


「あたしを信じて自信を持ちなさい」


「別にそれを否定するわけじゃないですけど……。でも夢城さんのアイデアが面白いからって人気でるわけじゃないし……」


「まあ、さっきからすごく悲観的ね」


「そりゃ今まで努力が報われた経験がないですから……。努力って、本当に報われるんですかね?」


「報われるわよ」


「そうですか? 俺がこのまま頑張っても才能ある人には敵わないし、小説家になれない気がします」


「それは夢が叶うか叶わないの話よ。夢は必ず叶う、って言うのは無理よ。叶えるには運も必要だから。でも努力はやった分だけ、目に見えない形で少しずつ報われてるのよ。真壁さんも小説書いたら少しずつでもフォロワーが増えていってるんでしょ? それがそうよ」


 そう言って、真樹は真壁の肩を叩いて笑顔で励ました。


「はぁ……、そうでしょうか。いや、そうなのかもしれないけど……。でも、世の中はそう夢城さんみたいに割り切れない人が多いから、こんなのが流行ってるんじゃないですかね……」


 そう言って、真壁はポケットからスマホを取り出し、その画面を真樹に見せてきた。


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