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FX界の王子様編(4)

今回のお話は、綾香目線で物語は進みます。

 私は、今、とても不思議な気分だった……。


 今夜は、王子様とのデートの日。お店を休み、とびっきりのオシャレをして王子様との食事を楽しもう!

 ……って思っていたはずなのに、彼は本当に女性慣れしていないようで、食事する場所も飲み物も、メニューも全て私がエスコートをしなければいけなかったのだ。


 ――私はあなたのママですかっ!!


 そんな呟きを胸に秘めながらも、夜景の見えるダイニングバーで食事をした後、私は王子様を連れて池袋の街を少し散歩する事にした。サンシャイン通りから少しはずれた所に、小さな公演があったので、そこで少し酔いを醒まそうと思ったのだ。


「……あっ、ねぇ岡本さん、お茶かなんか飲みます?」


「えっ……」


 ――ちょっとぉ、飲むか飲まないか聞いてるんだから、ハイかイイエで答えて欲しいし


 なんてまたまたボヤキながらも、私は黙り込む彼に笑顔を向け、自販機に駆けて行った。

 そして、お茶を買ったあと、王子様の元へ戻ろうと、私はふと彼の方を見ると、ベンチに腰かけている王子様は、背中を丸めてなんだかとても寂しそうにしていた。


 王子様は顔もスタイルも良く、ましてやマスコミなどにも取り上げられる超有名人で、しかも資産家だ。いわば、まさしく王子様って呼ばれるにふさわしい男性だと私は思う。それなのに、今夜王子様と一緒にいて、彼からずっと漂っていた寂しさや、ぎこちなさって一体なんなのか、私には不思議でたまらなかったのだ。

 正直、私がキャバクラで出逢ってきた、二十代でお金を稼いでいる男性たちって、みんな自信家でまるで地球の中心が自分って感じの人が多かったから。


 なのに王子様、あなたはナゼそんなにいつも寂しそうなの!?


 私が今まで会ってきた男たちとは比べモノにならないくらいの男なのに。

 私は、王子様の横でお茶を飲みながら、ずっとうつ向く彼をそんな風に見ていると、今まで黙り込んでいた王子様は、静かに口を開き呟いた。


「アヤカさん……今日は、付き合ってくれて……ほ、本当にありがとう……」


 私があげたお茶を握りしめて、しどろもどろになりながらも、まるで言葉を噛み締めるように彼は呟き始めたのだ。


「ぼ……僕は、女の人の事とか、あんまり良く分からなくて……だけど、あなたは僕が今ままで出逢ってきた女の人とは全く違って。や……優しくて健気で、ほっ…本当に天使みたいな人です」


「――……!!」


 なんだろう、王子様のその言葉に、一瞬、私は胸がいっぱいになった。

 今まで、私は何人もの男に口説かれてきた。本気かウソかも分からない駆け引きの中で、色んな愛の言葉を受けて、いい気分に浸っていた。

 だけど、そんなのと全く違って、王子様の言葉は、モゴモゴしていて、よく聞かなきゃナニ言ってんのか分からないような言葉だけど、一つ一つの言葉が一生懸命で、ナゼか心に沁みるのだ。


 私は、ふと向こう側に目をやると三越が見えた。そう言えば、ここの三越は五月の頭で閉店しちゃうらしい。

 私は、お客様と同伴する時に、よくここで色んなものを買ってもらっていたのを思い出す。

 私がおネダリもしないのに、カッコつけて何かプレゼントしようとする男性。

 プレゼントにかこつけて、すぐ身体を求めてきた男性。

 私の顔色を見ながらプレゼントの値段を決める男性。

 ……そこには、色んな男性たちとの思い出もあった。

 だけど、よくよく考えてみたら、私が一番欲しかったのは、プレゼントとかじゃなかったのかもしれない。


 私が一番欲しかったのは、たった一言の言葉で良かったんだ。

 王子様が言ってくれた、心からの『ありがとう』という言葉――!


 それは、打算も駆け引きも全くない、けがれのない言葉だ。


 女が幸せになるには、経済力は必要だ。この考えは、絶対に変わらない。しかし、それだけでも女は幸せにはなれないのかもしれない。

 だから、今までキャバクラで、何人もの経済力がある男と出逢ってきたのに、恋には発展しなかったんだ。

 結局、キャバクラで、男が求めていたものって、金で買える恋だったんだ。

 だから、女性がいくら男性に尽くしても、そこにお金が絡んでしまってる分、男性はそれを当たり前だと思ってしまう。

 だけど、ホントはそうじゃないんだ。私が求めていたのは、お金だけなんかじゃなく、人間としての思いやりやいたわりだったんだ。

 当たり前の事を、当たり前に思いやり、いたわれる男性。果たして、私の周りに何人いただろうか……。


 私は、王子様のその純粋でけがれのない言葉に、心があったかくなってきた。そして、ナゼか涙が溢れてくる。


 食事をごちそうになったのに、『ありがとう』なんて言われるのは始めてだった――!!


 王子様、あなたは本当に王子様なのかもしれないね。不器用だけど……真っ白で、純粋で。

 私は、キャバクラで働き出して初めてだよ。男性に対して、こんなに温もりを感じたのは。そして、ずっと一緒にいたいと思ったのは。

 何だか笑えるね。

 私はどんな男でもオトス事ができる小悪魔目指してたのに、王子様の優しさにおとされちゃったみたいだね。


 ふふふふ……小悪魔はもう卒業かな。


 私は、涙で濡れた瞳で王子様の顔を覗き込む。


「……ねぇっ」


「ど……どうしたの、アヤカさん? や……やっぱり僕、女の人の事とか分からないし、悲しませっちゃったかな? 涙が出てるよ、ゴメンね」


 ん……もぉっ!

 王子様のバカバカバカ!

 そんな事言われたら、私、王子様の事、ホントに大好きになっちゃうよ――!!

 

 ……って思った瞬間だった。


「岡本准一……! やっと見つけたわよ!」


 ちょっと、ちょっと、ちょっと――! 何なよ、この女っ!

 せっかくのいいムードをぶち壊すかのように、いきなり一人の女が王子様の前に現れた。そして、その女は、すらりと伸びた脚を大きく広げ、王子様が座るベンチの前で仁王立ちをして、いきなり彼にいいがかりをつけ始めるのだ。


「ったく、岡本准一、アンタ子供じゃないんだから、世話焼かせんじゃないわよ! アンタには、色々話さなきゃなんない事があるだから、今から私について来なさい!」


 王子様は、ヒステリックに言いがかりをつけるその女がよっぽど怖かったんだろう。彼は、私の背中を握りしめ、ずっとブルブルと震えている。そして、私はそんな王子様の姿を見ていると、無性に彼を守ってあげたくなってくる。


「ちょっとぉ、アナタ一体誰ですか? いきなり現れたかと思ったら、ヒステリックに怒りだして。いい加減にして下さいよ。彼、イヤがってるじゃないですか」


「アンタには、関係ないでしょう! っていうか、アンタってもしかして、山崎が言ってたキャバクラの女!?」


 ……ナニ、この人、山崎とか私知らないし。しかも、なんで私がキャバ嬢だって知ってんのよ! 私は黒髪だし、今日のお洋服もホントに普通の女の子って感じだから、絶対キャバ嬢に見られる訳ないのに、この女一体ナニ者!?


「さぁ、岡本准一行くよ!」


 とまどう私をよそに、その女は私の背に隠れる王子様の腕を引っ張って、ベンチから立たせようとする。だけど彼は、私の背中に捕まったまま、「……イヤだ」と呟き、今にも泣きそうにしている。私は、そんな彼を見ていると、だんだんこの女に対して怒りがこみ上げてきた。そして、絶対に王子様を渡してなんかやるものかと強く決意した。


「……やめて下さい」


 私は女の前に立ち上がり、そう言って彼女を睨みつけた。だけど、彼女は小柄な私より遥かに背が高く、その迫力に少し萎縮しそうになる。

 ただ、彼女の顔を睨みつけているうちに分かった事がひとつあった。それは、この女は……私たちよりかなり年上だってこと。だから私は、彼女を睨みつけたまま微笑んでやったんだ。


「……おばさん、早くどっか消えてよ」


「おば、おば……おばさん〜!? 男に貢がせて生きてるようなキャバクラやってるガキがナマ言うんじゃないわよ! 私は雨宮怜子って名前があるの! あ・ま・み・や・です!」


 ふふふふ、おばさんって言われて焦るのは、おばさんの証拠よ。

 

 まぁ、とにかくねぇ、私は王子様の事もっともっと知りたいし、一緒ににいたいの。

 だから、私の恋の邪魔をする人は誰であろうが許せないし、この恋を成就させるためには、こんなおばさんなんかに負ける訳にはいかないの。

 私におばさんと言われて、さらにヒステリックに声を荒立てる、雨宮という女に、私は思いっきり言ってやったんだ。


「私……岡本さんとお付き合いさせてもらってる江尻綾香と言います。だから……私たちの恋の邪魔はしないで下さいね、おばさん」


 ふふふふ、こうなりゃ宣戦布告よ!

 誰が邪魔しようが、絶対王子様を手に入れてやるんだから!




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