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その女、江尻綾香23歳

今回のお話は、綾香目線で物語りは進みます。


「え〜っ……山村さんも、田所さんもムリとかって何なのよもぅ……!」


 私は、次々と送られてくる新着メールを見ながら、ケータイに一人呟いた。


「アヤカ……、仕方ないじゃん。こんなご時世なんだから。まぁ、男たちは真っ先に、遊ぶお金を削っていくだろうからね」


 私が隣で少し寂しそうな表情を浮かべていた様子に、ミカはどうやら気付いたようだ。彼女は、胸元まであるライトブラウンの色をした髪を綺麗に縦に巻きながら、横目で私に話かけてきた。


「ねぇアヤカ、聞いた話じゃさぁ、……歌舞伎町のキャバクラ、昨年末とかにたたんだ店ケッコー多かったんだって。だからね、キャバクラ辞めて銀座のクラブに転向する子が今は多いみたい。なんだかかんだ言ってもさ、やっぱ銀座は不景気とかカンケーなく強いらしいからね。ほらっ、わたしらとは客層が全然違うから……っと、よし出来たぁ〜! ねぇアヤカどう、可愛いぃ?」


 ミカは、鏡の前で色んな角度で笑顔を作った後、最後に私の目の前で背筋をピンと張り、首をかしげて、ファッション誌のモデルのようにポーズを作ってみせた。


「……うん。可愛いよ。ミカちゃんはスタイル良いし羨ましい」


 私は、ミカに少し拗ねたように笑いかける。


「もぉっ、アヤカ、ナニ変な顔してんのよ! アヤカってさ……ちっちゃいし童顔だし、男からしてみたら絶対にアヤカの方が可愛いって思うに決まってんじゃん。そんな風に変な顔したら、アヤカの可愛いぃ可愛いぃお顔を台無しにしちゃうぞ……、コノっ!」


 ミカは、両手で楽しそうに私のほっぺを引っ張って無邪気に笑い出した。


「アヤカのほっぺ柔らかくて気持ちいぃ〜」


「もぅ、ミカちゃんのバカ」


 私は、短大を卒業後、就職してゆく同級生たちとは違い、池袋の「A-Cast」というキャバクラに勤めることにした。なんでもこのお店は、池袋では一番女の子の質にこだわっていて、池袋のキャバクラの中でナンバー1と呼ばれているらしい。まぁ、確かに、もうかれこれ三年ほど、このお店にお世話になってるけど、入店してくる女の子は一体どこで見つけてきたんだろう、って思うほど綺麗な女の子ばかりだ。

 そして、女の子たちの方も、自分の容姿やスタイルにかなりの自信を持っている子ばかりで、控え室の中では、『自分が一番よ!』的な見えない火花が走ったりする事が多い。

 だから私は、今日みたいにお店が暇で、キャストルームで待機している時は、少し寂しそうな表情を浮かべ、ミカみたいに姉御肌のキャストの子に甘えたりしてじゃれ合うようにしていた。

『私は、あなたには敵いませんよ』

 自分の周りにそんな空気感を出す事が、他のキャストたちと軋轢なく、長くお店を続ける事ができる秘訣なんだと、この三年間で私は学んだんだ。


 だって私は、まだこのお店を辞める訳にはいかないから――!


「ねぇアヤカもさぁ、一緒に銀座への転向考えない? アヤカくらい可愛いかったら、銀座でここよりも稼げると思うんだけどなぁ」


「――ん? 私はここでいいよ。銀座って器量じゃないし……」


 そうそう、謙遜、謙遜。他のキャストに調子乗った態度見せるなんて絶対ありえないし。

 しかも、私が探すターゲットは、銀座より、絶対このお店の方が多いし。

 ミカとは違って、私は何もお金稼ぐためにこの仕事してるんじゃないのよね。だからいくらお給与が良くったて、銀座にくるようなオッサンたちの相手するなんて、絶対考えられない。

 う〜ん、そうね。理想は、やっぱマックス三十歳くらいまでかな。


「……そっか、アヤカには銀座はまだ早いか。でもさぁ、アヤカって面白いよね。だってアヤカが通ってた短大って、超お嬢様ガッコーじゃん。そんな子が、なんで三年もキャバクラなんかで働いてんのか良く分かんないんだよね……」


「ふふふふ、花嫁修行よ、ミカちゃん」


「花嫁修行……? なんじゃそりゃ」


 細く伸びた綺麗な指にタバコを挟み、ふっーと煙を吐き出すミカに、私はそっと微笑んだ。


 花嫁修行――そう、就職もせずキャバクラで私が勤める理由は、理想の結婚相手を探したいからだ。


 ホント言うと、短大卒業後にでも、それなりの相手がいれば、私はすぐにでも結婚をしたかった。二十代後半で独身なんて絶対イヤだし、そんなの私にはありえないし。

 だけど短大時代に知り合う男性の幅なんて、あきれるくらい狭すぎた。とうてい私が理想とする男性になど巡り逢ったためしなどはなかった。

 それなのに、例えばどこか会社に就職して、所得の低い同年代の男と安易に社内恋愛なんかしちゃって結婚話とか進んじゃったら、それこそ悲劇じゃん。

 だってね、四大卒でも、今の新卒の平均の年収は300万を切るらしいよ。

 そんな年収で、どうやって幸せな家庭を作っていけるんだっての。言っとくけど、私、結婚したら働く気はないし。

 1,000万とか贅沢は言わないけど、将来の安定とか考えたら、せめて500万くらいの年収は欲しいかな……。


 だから、私はキャバクラで理想の男性を探す事にしたんだ。


 だってね、例えば短大時代の友達のツテで、何回合コンをしようが、普通の会社員の二十代で、500万の年収を超える人を探すのって、結構ハードルが高いんだよね。

 だけど、キャバクラだと、そこそこお金持ってる男が、向こうからやってくるんだもん、こんな美味しい出逢いの場なんてないっての!

 しかも、この店は池袋の中でも、セット料金は少し割高で、結構敷居の高いキャバクラなんで、お金持ってなさそうでしみったれた若者なんては滅多に来ないし。

 まぁ、例えそんなバカっぽい男が入店してきたとしても、絶対そんな男の席に着かされないように、数いるキャストの中でも、私だけが唯一黒髪で清楚なキャラを作って努力してんだから。


 だって、ボーイたちも馬鹿じゃないから、ギャルとかが好きそうなちゃらに、こんな黒髪の私を着けたりなんては絶対しないからね。

 私にはいつも、ちゃんと大人っぽい落ち着いた男性の席を用意されていた。


 まぁ、つまりは私がこの店で働く事は、いわゆる『婚活』のひとつってとこかな。


『アヤカさん、ご新規様一名お願いします』


 おっ、呼び出しだ。今日は、さっきメールしていた私の理想の旦那予備軍が、みんな来れないとの事だったんで、ちょうど良かった。


 ――さてさて、今日はどんな出逢いがあるのかな!


 私は、鏡の前で笑顔のチェックをして、フロアへ続く廊下を歩いた。まっすぐと続く廊下の先は、フロアに輝くシャンデリアの光が目映く溢れていた。


 フロアの陰で、私はコンシェルジュ役のボーイに案内されている男を見つけた。


 年齢は、おそらく私と同じか少し上くらいだろうか。その男は、まだ若く見えるのに、すごく落ち着いた雰囲気を持っている男だった。また、すらりとした背丈に加え、どちらかと言えば女性的な顔立ちがとても美しく、思わず私は彼に見とれてしまう。


「どう? アヤカちゃん、彼カッコイイだろ……」


「――えっ!」


 呆然とその男に見とれてしまっていると、ボーイが急に私の耳元に囁き始めた。


岡本准一オカモトジュンイチ、二十四歳。彼ね、まだあんな若いのにFXでかなり儲けてる男なんだよ。アヤカちゃん、知らない? 最近、各ジャーナリストで『FX界の王子様』とかってよく取り上げられてる男。あの若さで、所有する資産は一億は超えると言われているらしいし……。なんか、まさに時代の申し子って感じだね。アヤカちゃん、今夜は粗相のないように頼むね」


 ――FX界の王子様ぁ!?


 ――資産一億円……!?


 ううう……キターっ!


 理想を超えた、スーパー理想の男じゃん。

 女――江尻綾香、二十三歳。ついに勝負の時が来た。私が三年間磨き上げてきた、この小悪魔テクニックで、絶対あの男をオトス!


 はじめまして、水嶋かおりです。

 「KO・N・KATU〜恋は仁義なき戦い!〜」

 ここまで、読んで下さって方、本当に有り難うございます。

 男性の皆様からすると、もしかしたら、男をまるで敵視するかのような上昇志向が強い雨宮怜子も、男をお金でしかみないようなしたたかな江尻綾香も、超とっつきにくくムカツクキャラクターかもしれません。もちろん小説の世界ですので多少は極端すぎる性格には作っていますが、できるだけイマドキの三十代と二十代の女性たちの本音、そして彼女たちに対して社会は一体どんな価値付けをしているのかという現状、そのような現代社会における本音の部分をズバズバと顕わに描いてゆきたちと思います。

 ですので、中には目を背けたくなるような発言などもあるかもしれませが、社会の本音を包み隠さず表現した上で、皆様と一緒に「人生の幸せ」なんかをちょっぴり考えてゆければなぁと思っています。

 最後まで、応援よろしくお願いいたします。

 

 さぁ、次回からは、「FX界の王子様編」が始まり、いよいよ物語が走り出します。

 FXって、今や若い人たちの間でひそかなブームらしいんですが、ナゼ所得の低い若者たちでもそんなに手を出しやすい投資なのか? そして、それはなんでそんなに儲かるのか? はたまた、リスクとかはないの?

 今、注目のFXにズバリとメスを入れてゆきます。

 是非是非、お楽しみに〜!!

 



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