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『見えると見えない』
『見えると見えない』
視力が悪い
眼鏡をかけても
よく見えない
夜空の星は
ぼんやりとして鈍く
それこそなにかの発光体にしか見えない
あんなにも綺麗に見えていた星なのにと
胸がきりっと痛くなるほどの
冴えた光だったのにと
哀しくなった
本物の美しさを見る眼を失って
怖くなった
わたしが持つ
大切にしているなにかが
ひとつ
ひとつと
剥がれ落ちていくようで
車でゆく
握るハンドル
視界はぼやけて
その視界に入る世界の全てが
真ではないという
悲愴感
ただ
風の強い日
紅葉の葉っぱが舞い落ちる
国道をゆくと
夕陽に反射して
きらりきらりと
光る落葉が
ぼやける視界の中で
奇跡のように光る
見えないからこそ見える世界もあるのだなあ
アクセルを踏んでいる右足に
少し力を入れ
紅葉の舞う中に飛び込んでいく
うわと喜び
ハンドルを握り直す
単純なわたし