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『モッコウバラ』と『始まったんだね』と『泥濘に爪先』
『モッコウバラ』
また今年も咲いている。
ただの黄色とも、淡い色とも、儚い色とも言えない、薄黄色。
モッコウバラの色。
その優しい色合いを見ているだけで、
ぽろぽろとほぐれていく。
蔓を這わせて、金網を絡め取り、覆い尽くす花だ。
その薄黄色が大好きなのに、近寄って香りをかいだこともないのが寂しい。
どんな香りがするのだろう。
来年こそはと、意気込むけれど。
近寄りがたい雰囲気に負けてしまうんだ。
その気高き姿と、
ちょっと恐くて近寄りがたい、ご近所のおじさまに。
『始まったんだね』
ああ、学校が始まったんだね
色とりどりのランドセルを揺らし
坂道をおりていく
ああ、私も書かなきゃ
同じようにね、エンピツを揺らして
『泥濘に爪先』
どんな家にも、
さまざま事情がある
それは色彩に富むようにもみえて
実は一色
どんな住人にも、
さまざま荷物がある
それは見た目ではわからない
中身を持つ
時々
単純と複雑を背負ったまま
沈んでいく
沈められていく
泥濘に
爪先




