ショートコメディ『敵井くん』
私には、好意を抱いている先輩がいる。この気持ちを伝えたくて、寒空の下、屋上に呼び出した。敵井先輩は、いつものように澄まし顔で、クールにニヒルを気取っていた。
「敵井先輩! 待ってました! あの、わ、私!」
「あのね。前もって言っておくけど、ぼくは、ぼくに向けられる好意は、全て敵意と見做すから」
「私、私、え、ええええええええええええええ」
彼はニヒルな笑みを浮かべている。
……なんか、私、振られたみたいになってるんだけど!? まだ、肝心なことはなにも言ってないのに!? 敵井くんは、相変わらず冷たい。
好意は敵意と見做す。そんなこと言われたら、私、どうすることもできないじゃないか。というか、そんなこと言う奴は、社会的な人間としてどうかと思う。だれも、彼のことを好きと言えなくなるぞ?
誰からも嫌われて、村八分されるよ?
私からの大推薦で、村八分するよ? 村の総意で、村八分するよ? 社会的に抹殺して、二度と、表舞台に立てなくさせるよ? いいの?
クズで腹黒な私は、色々と、彼の酷い目に遭いそうなプランを考えた。
「うーん。死ぬより苦しい拷問て、どんなのがあったかしら」
「えっと〇〇ちゃん。心の声、聞こえてるから」
「えっやだ、私ったら!」
「〇〇ちゃんそんなキャラだったか……?」
私は、そういうキャラだ。敵井くんは、今更、なにを言っているのだろう。そもそも、ぶれないキャラなど、リアルな人間を書けていないだろう。キャラなど、相手によって、変わるのが自然だ。
「そんなことより、さっきの話し」
「なんのこと?」
「と、とぼけないでよ! さっき『ぼくに向けられる好意は、全て敵意と見做す』って言ったじゃない!」
「ああ、言ったな。だから?」
「だ、だからって」
「だから、なんなんだよ。そんなことを言われたくらいで、あんたは、挫けるような女だったのか?
もっと、熱くなれよ」
ネタはやめろ。
なんで、私が鼓舞されたみたいになってるんだ。明らかに、お前が悪いだろう。なんだ、このクズさ加減は。私以上ではないか?
なんだか私は、彼のその生意気な態度に、嫌気がさしてしまった。嫌いになったのだ。あんなに大好きだった彼のことが、嫌いになってしまった。
あの一言で、全てが変わってしまった。変わってないのは、私がクズだってことぐらいだ。
少ししたら言おう。私は、先輩のことが好きでした。そして、今は嫌いです。死んで詫びてください。
「おい、聞こえてるぞ」
「えっやだ、私ったら!」
照れてしまう。