調べもの
畑に出ると、前もって聞いた通り確かに立派に育った小麦が風に揺れているのが見えた。
ミナはさっそく近づいて行って調査を開始した。
「いいんですか村長。っていうか正気ですか?」
「言いたい気持ちは分かるが言葉は選んでくれないか、ジン。そこはかとなく殴りたいぞ」
後ろの方からひそひそとした声が聞こえてくる。
村長と、それからなぜか話を聞きつけてついてきたジンという名のどこかひょろひょろした青年の内緒話だ。
耳のいいミナにはすべて丸聞こえだったが。
「そうは言っても村長、俺たちが今まで必死に調べても分からなかったんですよ」
「もしかしたらということもあるだろう」
「あるんですか?」
「う。それは……そのだな」
「ちゃんとこっちを見てください」
「ええと。なあ?」
劣勢の村長にミナは振り返らず、黙って親指を立てた。
「……ほら、あんなに頼もしいぞ」
「なんで目をそらしたままなんですか」
後ろは放っておいてミナはぐるりと畑を回った。
そんなには広くない。
家が二つ建つかどうかといったところか。
本当はここも早く刈り入れを終わらせたかったそうだが、ミナの調査のために少し待ってもらっていた。
「ねえ、ちょっと来て!」
後ろの二人に手を振る。
そばまで来た彼らに、小麦の根元を示して言った。
「ここ見て。分かる?」
「何かあるのか?」
「うん。魔法の痕跡」
村長たちはミナの示す先をしばらく覗き込んだが、疑わしそうな顔でこちらに視線を移した。
「見てもよくわからないんだけど……」
ジンと呼ばれていた青年が首をかしげる。
「普通の人には分からないかもね」
「でも君には見える?」
「見えるっていうか分かるって感じ。こう、出てるんだよ。みょーんって。波的なアレが」
「……」
ジンはしばらく考え込んだようだった。
「村長。この子、やっぱり変です」
「指さしてやるな」
腕を組んで村長が言う。
だがそのしかめ面はそれほどジンに異論もないようだった。
「なあミナ。それで原因は分かりそうなのか?」
「とりあえず魔法なのは間違いないよ。さっき小屋の天井を崩したのと同じの。後は誰が使ったかが分かればいいんだけど」
周りに視線を巡らすが、その手がかりになりそうなものはない。
もう一度視線を戻してミナは首を傾げた。
「それにしてもなんだろうこの魔法……あまり見たことない感じだけど」
「村長、あまり言いたかないんですけど、この子の自作自演ってことは?」
またひそひそ声に戻って、ジン。
「魔女ってのも信じがたいですけど、もし本当だとしてもそれで信用していいわけじゃないでしょう。むしろ危険だ。小屋の崩落だってあるいはこの子が……」
「それをして何の意味がある」
「それは……」
「こいつは悪い奴ではないさ。勘でしかないが俺はそう思う。変な奴であることは間違いないが」
「……」
ジンが反論できなくなったところで、ミナは二人を振り返った。
「この村に魔法を使える人はいる?」
「いや」
「じゃあ魔法がかかってそうなものは?」
「ないな」
「うーん……そっか。じゃあ外から来た人の仕業かな」
「よそ者ってことか? そんな奴に覚えはないが」
「まあ人ってこともないかもだけど」
「……?」
ミナは近くにあったシャベルを手に取った。
それから小麦の根元を掘り返す。
「何をしてるんだ?」
「確認」
しばらくして出てきた根っこを見て、ミナは小さくうなずいた。
「うんそうだ。やっぱり」
「なんなんだ?」
訊いてくる村長を振り返って根を指さす。
「根が育ってる」
「見りゃ分かるよ」
「じゃなくて根も育ってる。土の上に出てる部分だけを無理やり伸ばす魔法ってわけじゃない」
「?」
「あと土も変。いきなり長い時間が過ぎちゃったみたいにすっごくボロボロ。あ、ここに色の境目がある」
普通に見れば気づかない程度の違いに過ぎないが。それでもよくよく見れば無視できないほどに土の質の差があった。
村長たちものぞき込んで首をかしげた。
「これはどういうことなんだ?」
「……」
ミナは何も言わずに立ち上がった。
きょろきょろと見回して、近くの木に目をつける。
「ねえちょっと! そこの鳥さん。聞きたいことがあるんだけど!」
枝には青い鳥が止まっていたが、手を振って近づくこちらに気づくと驚いて飛び去っていった。
「あれぇ?」
ミナは首をかしげる。
「今のは?」
戻ると訝しげな顔の村長に訊かれた。
「ちょっと聞き込みをしようと思って」
「鳥に? ああいや待てやっぱり聞かないでおく。多分その方がいい」
何かを手で払いのける仕草をしながら村長はこちらのわきを通り過ぎた。
「それよりここをもっと調べるか?」
「そうしようと思う。まだまだいっぱい聞き込みしたいし。あそこのネズミさんとかに」
「そ、そぉか。俺たちは仕事に戻るが、終わったら呼んでくれ。早めに刈り入れを始めたい」
「分かった。期待しててね!」
「……無茶な注文するなー」
歩き去っていくジンがそう言ったが。
ミナは気にせず調査を再開した。




