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神様に「やめじゃ」と言われて最底辺転生  作者: TKG
第一章 始まりは最底辺
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第三話 異世界の洗礼

「まって、こんなの納得できないよ!」


 渾身の魂の叫びが木霊する。人々は一様に動きを止め、視線を向けてくる。驚愕7割、奇異なものを見る目が3割といったところだろうか。

 人々が固まっているように僕も固まる。姿勢は四つん這いで右手を突き出している。表情はこの世の理不尽を弾劾するがごとく鋭く、だが悲哀を帯びている。発した声は金切り声に近く、ヒステリックを起こしているかのようだ。そりゃぁ注目も浴びるというものだ。



 率直に言おう。すげー恥ずかしい。


 状況に付いていけず、顔を真っ赤にして肩を震わせていると、筋骨隆々の豪放そうなおっさんが近寄ってくる。そして僕の目の前まで来ると、しゃがみこんで目線の高さを合わせてにかっと笑い、いまだ震える僕の肩を叩いてこう言った。




「※※★▲▽◎&&%▼‡§♯?>⊇⊇⊇◇▽◇▽@◆☆◯〒!!」


 すんません。僕バイリンガルじゃないんですよ。ちょっと翻訳機持ってきてもらっていいですか。そんな文字とか記号とか並べ立てたような言語を喋られても理解できないんですよ。


「ゞゞ?УЩж$£◆%◇◇♯▲・★‡★?」


 おっさんが重ねて問いかけてくるが、ダメだわからん!えっと、外国だと初対面の人に会ったときどうするんだ?英語!英語の授業を思い出せ!そうだ、まずは自己紹介だ。



「お、おういえーすまいねーみぃずひとしただの!あいむじゃぱにぃーずすちゅーでんせんきゅー!」


「……▲◆◯☆▼』@★?」


 あ、これならわかるよ。なに言ってんだお前?でしょ。

 周りからクスクスと笑い声が上がる。あ、笑ってるってのはやっぱ言語が通じなくても分かるもんなんだね。笑うってより嘲笑されてるってほうが近いかもしれない。残念だけど僕にそんな趣味はない。


「そーりぃ!用事があるんだ!ちょっと何が起きてるかわからないからまたあとで!!」


 僕は立ち上がり、反転して走り出す。これ以上羞恥を重ねるわけにも怪しまれるわけにもいかない。手遅れ?しらんな。後ろからおっさんの声が聞こえてくるが、今は状況の確認が最優先なので無視して走り出す。


 どうやらここはあまり大きくない村みたいだ。幸いなことに出口を発見したので一目散に飛び出す。本当はゆっくりと村を見て回りたいところなのだが、いかんせん悪い注目を浴びすぎた。村の通りで四つん這いで謎言語を叫ぶ男…アウトだ。日本なら警察沙汰だ。


 村からそう離れていない草むらに腰を落として呼吸を整える。インドア派の体力の限界は早い。深呼吸を繰り返してなんとか心を落ち着かせる。よし、落ち着いた。冷静に現状を分析しよう。


 記憶が確かならば、僕は神様に嫌われて何の能力も与えられずに異世界へ飛ばされることになった。猛抗議中に強制ワープで村のど真ん中。羞恥プレイを堪能したあと村を飛び出てここに至る…と。

 なんだ、詰みか。


 いやまて、何か持ち物はないか?よくあるじゃないか、現代日本の珍しい品が高値で売れれば…と考えて気付く。死ぬ前に着ていた学ランはどこへやら。僕のいまの格好を端的に表すなら村人A。間違って通貨とか持ってないかなーと思って衣服を探るもノーヒット。跳んでみる。草を踏みしめた音だけが響いた。

 金がないなら稼ぐか。雑用でもなんでもすれば当面の資金繰りは…言葉通じないじゃん。

 なんだ、詰みか。


 いやまて、そうだステータス!この世界の人よりも実は僕は強いなんてこともあるかもしれない。考えてみたら便利スキルを2つ貰ったところでステータスが低すぎたら簡単に殺されてしまう可能性だってあるんだ。だから基礎ステータス位ならちょっとしたボーナスがついているかもしれない。…どうやって見るんだろ?


「鑑定魔法発動!対象、自分!」


 これじゃないみたいだ。


「メニューオープン!」


 これでもないみたいだ、


「ステータスオープン!」


 ピキーンという音が頭の中で響く。これだった!なんでもやってみるもんだ!

 うおっ!頭の中に直接様々な文字列が表示されてくる。目で見るのとは違う感覚で新鮮だ。なになに…




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 なんだ、詰みか。いやステータスオープンって唱えれば出てくるんだからそこは日本語か、せめて英語ででてこいよ!

 と、突っ込みをしてて気付く。適当な魔法を唱えたらもしかしたら使えるんじゃないか、と。


「ファイヤーボール!!」


 ………


「フレイムアロー!!」


 ………。どうやら僕の魔法適正属性は火属性ではないらしい


「アクアカッター!!ロックランス!!ウィンドクロウ!!」


 四属性全滅か。これは上位系統の魔法かユニーク魔法の線が濃厚かな。


「ライトニング!!アイスバレット!!ホーリースピア!!ダークネスディザスター・ジ・アビス!!」


 ………。詠唱が足りなかったのかな。


「火の精霊よ!我望む地獄の業火―遍く炙る紅蓮の光―空焦がす摩天の灼炎―顕現せよ!焼き払え!太陽の御掌!ファイヤーボール!!」



 四節も使ったのに駄目なのか…。どうやら俺には魔法の才能は無いようだ。火の精霊もっと頑張ってくれよ。


 ぐぎゅるー


 下らないことでエネルギーを使っていると、腹の虫が空腹を訴える。久々に空腹を感じたな…三日ぶっ通しで喋ってたときは死んでたんだもんな…生きてたら腹も減るか。どうにかして村で食べ物を恵んでもらえないかな…。


 村を改めて見てみると、家はどれも簡素な造りで入口の門もちゃっちい。村の外周を覆う柵もボロいしお世辞にも栄えているとはいえない。裕福な村なわけがないよなぁ。おこぼれに預かるのはあてにしないほうが良さそうだ。


 結論。現地調達しかない。近くに森もあるし、果実を取るくらいなら大丈夫だろう…多分。ステータスは謎の文字化けをしてて見ることができなかったけど、実はそこらの人間よりは強い可能性を捨ててはいけない。


 悩んでいても腹は膨れないし、いっちょやりますか!食料調達!そう意気込んで近くの森へ向かおうとしたその時だ。ちょうど目指している森の木々の隙間から猪が出てきた。猪の肉って食ってみたかったんだよなぁ。不意打ちを食らわせたら倒せないかな?焼いたら食えるだろうかと思考を巡らせて、対象をよく観察する。


 いや、あれは猪なのか?からだの高さは僕より高いくらい…ってことは2メートルほど。からだの長さはここからだとよくわからない。異常に発達した牙はマンモスのように凶悪に反り返っている。足は丸太のように太く、踏まれたら確実に骨が砕けそうだ。毛並みは逆立ち鼻息荒く、遠目に見ても興奮しているのがまるわかりだ。瞳は爛々と赤く輝いており、その存在の凶暴性を象徴するようだ。そしてその双眸が僕を捉える。あの凶悪な動物に感情はあるのだろうか。それとも僕の錯覚だろうか。ニイッと…笑った気がした。


「フゴォォォッ!」


 雄叫びを上げるが早いか、地響きを伴ってこちらへ突進してくる。丸太のような足は草原の草花を蹂躙してその蹄の跡を刻む。突進の勢いはすさまじく、風を切る音を響かせながらあっという間に距離を詰めてくる。激しく揺れているにも関わらず、目は相変わらずの鋭さをもってこちらを捉えている。


 何が不意打ちで勝てるかな?だ!こんなの、明らかに勝てる相手じゃない!!相手をすること自体が間違いだ!!


 脳が、本能が、細胞が告げた。逃げろ!!死ぬぞ!!


「うあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!」


 形振りなんて構うな!走れ!走れ!追い付かれたら殺される!喰われる!自分に言い聞かせて走るも、脚力に絶望的なまでの差がある。どれほど必死に走っても、距離が広がるどころか詰められる。


「フゴオォォォッ!」


 真後ろから雄叫びが響く。振り返るともうすぐそこまで猛獣が迫っていた。目が合うと、やはり感情を持っているかのように…笑った気がした。

 獣は走りながら首を引く。その際も目だけはしっかりこちらを捉えていた。そして…不気味な笑みが一層濃くなった気がした。


 なにかが来る!このままではまずい!直感を頼りに横へ跳ぶ。

 瞬間、獣が急加速して接近し、引いていた首を振るう。さっきまで自分がいた場所を凶悪な二本の牙が空を切り、ゴオッと衝撃波を伴って前方の大地を破壊する。もしそのまま走り続けていたらバラバラになっていた…その事実に足が震え、呼吸が乱れ、歯がカチカチと音を鳴らす。


 怯えていてもどうにもならない!立たなきゃ…立たなきゃ殺される…!


 必死の覚悟で震える足に渇をいれて立ち上がる。獣はその行動を嘲笑うかのように地面を前足で踏み鳴らす。


 ズガアッ!


「あぐっ!うぁっ」


 踏みつけで生じた振動が震える足を容易く折る。腰は砕け、もはや立ち上がることもままならない。

 もう獲物が逃げられないことを悟ったのか、獣はゆっくりとこちらへ近づいてくる。その眼差しは相変わらずこちらを捉えている。

 次の瞬間、獣はふと視線を後方へずらす。視線の先には振動を発生させるほどに踏みつけられた地面があった。叩きつけられた箇所は蹄の形に凹み、周囲は地割れが起きている。


 その惨状を確認し終えて獣を見ると、これまでで一番醜悪で凶悪な笑みを浮かべていた。


 ―次はお前がこうなるんだぞ―


 そう言われていると本能が理解してしまった。


「うあぁあぁぁぁっ!!やめっ!あっ…うっ…」


 嗚咽がこぼれる。上手く声がだせない。死ぬ!死ぬ!死ぬ!死にたくない!死にたくない!!


 獣が両前足を持ち上げる。これから殺されるというのに、その足から目が離せなかった。そのおかげで辛うじて見えた。


 赤と銀の閃光が獣を切り伏せる瞬間を。


 獣は両前足を持ち上げたまま横に倒れる。よく見ると顔がない。破壊に特化した凶悪な牙と、心底恐怖を呼び覚ますような赤い双眸がついていた顔は……見渡すと、少し離れた場所に落ちていた。おびただしい量の血液がいまなお噴水のように噴き出している。これだけの出血だ。もはや絶命しているだろう。


「な、何が…」


「◆ж>」


「っ!?」


 突然話しかけられて背後を振り返ると、燃えるような赤い髪を靡かせた女性が立っていた。その両手には立派な装飾が施された剣が一本づつ握られている。直感した。この人が助けてくれたんだ!


「◆ж>」


 助かったという安心感で呆けていると再び女性から声をかけられる。死の恐怖から解放されて高揚する。生きてる!あぁ…本当に良かった…。

 あ、お礼、お礼を言わないと!言葉は通じないけど感謝の気持ちくらいなら通じるはずだ!

 未だに鳴り止まない心臓の鼓動を煩わしく思いながらも立ち上がり、女性と向き合う。


「…ありがとう!本当にありがとうございます!!あなたが駆けつけてくれなければ危うく死ぬところでした!!本当に、本当にありがとうございます!!」


 何度も頭を下げて礼を言う。言葉なんて伝わらなくていい。この気持ちだけは伝わるはずだ。


 女性は抜いていた剣を二本とも鞘に納めた。そして―




「あがっ…!?」


 自由になったその拳で、僕の顔を殴り付けた。

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