目指せ!ニートライフ!
窓越しに見えるあのでかい建物は深い歴史を持つ油屋「名油田」ここのトップである、
名油田 秀明は、アル中、ニコ中、最悪親父!!!
「菜乃花ー!」 …お母さんの声だ。
「菜乃ちゃーん!」…しょうがない。
「何ー?」私はワザと嫌そうに返事をした。
狭くてボロい生活感あふれるこのアパートの一室で私は母と弟と三人暮らし。
ああ、それと猫のコテ。私のベットの上でうずくまっている。
そんな私はコテの隣でノートに日々の不満を書きなぐっていた。
「今日何か予定あるんじゃないの!?二十歳にもなっていつまでもグダグダしてんじゃないよ!」
とうとうお母さんが私の前で仁王立ちして言った。
そもそもこの部屋本当に狭いからわざわざここに来てくれなくても
十分聞こえるんだけどね…。
「ニート!ニート!」ゲームをしながら中学生の弟、葵が叫び始めた。
底辺高校卒業後、特に夢もない私は父の油屋で働くこととなった。といっても最初の
二年間は人が怖くてこのアパートに引きこもって中々職場に行けなかったけれど、
父がそんな私の状況を見て「小人」がする仕事を私にくれるらしい。
どうやらその製品管理の役割を持った「小人」が盗みをしたんだとか。
他人恐怖症の私にお似合いの仕事だと思ったのだろう。
私は再び作業に手をつけ始めた母を横目に引き出しの中に入った手紙を手に取った。
名油田 菜乃花 様
製品管理係の監視役員を務める 東雲すず子です。
貴方様を製品監視係に任命します。15日、午前9時に来て下さい。
小人たちと仲良くしてくださいね!
お待ちしております。
油屋 名油田 製品管理係監視役員 東雲すず子
私はその手紙の内容を見るなり、ふんっと呆れたような仕草をした。
視線を感じ、振り返るとお母さんが私を凝視していた。
「な、何よ?」私はお母さんの様子に動揺して聞いた。
お母さんは時計の方をジロリと見つめた。時計は12時を過ぎていた。
今日が東雲すず子さんとの約束の日だ。
私はふぅーとため息を吐くと、分かったよー。と気の抜けた返事をした。
「ちょっと!菜乃ちゃん!その格好で行くつもり?メイクは?」
そう言われると行く気なくなる…。
「アンタただでさえ地味な顔なのに!全く…」
何かペンの様なもので顔にかかれる感触がした。そして何か被され、穿かされた。
仕方なく大人しくそれに応じていると、
「二十歳が親に着替えさせてもらってどうすんだい!」
と、お母さんが嘆く様に言った。確かににそうだね…。
「はい!口紅は自分で塗って!!」
口紅を塗りつつ玄関に向かうと葵が私の姿を見るなり、クスクスと笑い始めた。
「やっと働く気になったんだね!ニート姉ちゃん!」
馬鹿にする様に言われるとストレス溜まるわ!私は葵を無視して靴を履き始めた。
「お姉ちゃん、その格好変だよ。」葵がまた馬鹿にする様に言ってきた
確かに変な柄の長スカートにシャツは少し派手だった。スーツって言うのにした方がいいのかな。
「菜乃ちゃんの仕事はどうせ雑用だから、それだいいんだよ!」
お母さんは料理をしながら大声で叫んだ。相変わらず声が大きい。
その発言にすかさず葵が反応して何か言っていたけど、きっとろくな事言ってないのだろう。
そう思い、葵が喋っている途中に重い足を懸命に動かしながら外へ出るのであった。
今は昼間、大人は仕事に行っているけど、子供は休みの日。だから道で子供達が楽しそうに
縄跳びや独楽回しを楽しんでいた。そして私を見るなり、コソコソと何かを話し合っていた。
(この子供達に何を言われようと私の人生には何も影響はない…この子供に何を言われようと私の人生には…)
そう心の中で唱えているうちに、子供達が見えない所にまで来た。
これで安心したー。でももうキツイ…逃げちゃおうかな…。でもなぁ… こんな感じで、
憂鬱な気分のまま再びあのデカイ建物(私の職場)に進もうとすると何か気にかかるものがあった。
そこはあのデカイ建物(私の職場)で働いてる小人たちの寮だっけ。小さい頃、よく小人たちと遊んでたなー
気にかかったのはその私のボロいアパートよりもボロい寮ではなく、その寮の無数の靴箱の一つに何か書かれている
様な気がしたからだ。しかし、ここにまだ小人なんて住んでいるのかな?かなりボロいしもう使われてないんじゃないの?
「…王手!…」 「うひゃー…絶対……」ん?なんか聞こえる。まさか、小人の声??
「……それより…今日……だけど………どう?…」 「…やったー……」ええ!ここに住んでいるの?お気の毒に……。
私はその小人たちが急に可哀想に思えて来て、せめて靴箱に書かれた文字(多分落書き)を消してあげようと
思い、靴箱に近寄った。その文字は鉛筆で、「見て」と汚い字で書かれていた。見て?どういうこと?
落書きしてある靴箱を開けると、一冊のノートがあった。…なんだろ。
私は少し興味を持ってそのノートを開いた。
14へ今日………に来て。 14最高だわ 16は全然だな。締まりはいいけど、
可愛く鳴かないもんね。 14て誰ですか。 知りたいん? はい。 じゃあ代わりに……に来て。 わかりました。
ノートの内容は一番新しいのがこれだった。私は悟った。小人たちは性欲が強いから困る、
と小人管理係のおじさんが、中々トイレから出てこない小人にため息をつきながら言った
のを覚えている。私がまだ小学生の頃だった。よく意味が分からなかったけれど、
今ならわかる。小人とその様なことをしてくれる人間などいないから、こうやって
小人同士でこのノートを通じて性欲がを満たしているのだ。小人は子供っぽい体つきで
背も成人しても低い。声も子供っぽく、その様なことをするだなんて想像もつかなかった。
私はもうノートを閉じようとしたが何かここに書き込んでいる小人たちに意見を言いたい
気分になった。決して否定はしないけど、なんとなく何か言いたかった。
とりあえず先が丸まった鉛筆で 「なすび」とだけ書いてノートを閉じ、職場に向かった。
つづく 次回、油屋の娘、家出する。(2)