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7.答え?

 ピピピピッと目覚ましが鳴って、のそのそと起き上がる。


 寝癖を軽く整えて運動のしやすい服に着替え少しぼーっとしていると、世界が切り替わりさらさらと風が頬を撫でた。


「……」


 莉乃がこちらをじっと見ている。


 何を言うでもなく、ただじっとじーっと。


「きょ、今日はどこから回ろうか」


 焦った小咲ちゃんがわざとらしく明るい声をだしたが、莉乃は動こうとしない。


 ……はぁ、めんどくさい。


「莉乃何か言いたいことあるの?」


 それでもそんな気持ちを表に出さないように、努めて優しい声色で私は尋ねた。


「あんたってほんとに麻耶以外どうでもよかったのね」

「……え?」

「由真を死なせる気だったんでしょ。それであたしたちも死なせるつもりなんでしょ」

「えーそんなこと花月ちゃんは思わないよー」


 私と莉乃の間に立たされて小咲ちゃんは戸惑っている。

 いつも優しい彼女だが、今回はうっすらこんなところで喧嘩をするなと怒りの表情が表れていた。


「七つの噂は私も調べたし本当にあることはわかった。でもなんでそんなところに行こうとか言い出すの?」


 莉乃が青筋を立てているが、こればかりは完全にお門違いだ。

 確かに私は提案はしたが「行こう行こう」と一番に乗り気だったのは莉乃ではないか。


「莉乃だって乗り気だったのにその責任を人になすりつけないでほしいな」


 おそらく莉乃も自分に責任の一端があることに気づいていたのだろう。

 気づいていて、こわくて。

 自分より立場の弱い私になすりつけようとした。


「はぁ!? あんた由真殺しといてそんな言い訳……」

「ちょっとちょっと静かに!」


 激昴した莉乃を小咲ちゃんが抑える。


「由真殺しといて? 莉乃と由真にそんな友情あったの?」


 私は冷めた顔で莉乃を眺めた。


 莉乃は由真のことを少しも大事には思っていなかった。

 どんくさい由真にこっそり舌打ちする場面を何度も見たし、私も小さな嫌がらせをするところを何度も見られて黙認されている。


 自分が殺されるかもしれない恐怖を人を思って怒る感情に履き違えて偽善者ぶるのはやめてほしい。


 はぁはぁと肩で息をしながら、莉乃が私を睨む。

 私も負けじと睨み返した。


「あんたこそ麻耶の親友ぶって。麻耶に嫌われてたくせに」


 ……は?


「何それ」

「あんたは麻耶に嫌われてたって言ってんの。そりゃそーだよねー、勝手に親友面して他の人と喋っただけでキレるとかまじうざいじゃん」


 そんなこと麻耶が思うわけない。

 しかし、


「最近麻耶の付き合い悪いって薄々感じてたんでしょ? あんた断ってあたしと由真と遊んでたんだよ?」


 麻耶が金欠のはずがない。私とあそんでないんだから。

 そう無邪気に信じていた。

 親友なんだから、それ以外の人と遊ぶのはダメでしょう?


 でもやっぱり心の隅で感じていたのだ。

 麻耶の心は私から離れているんじゃないか……。


 クスクスと莉乃が笑う。

 わざと私の神経を逆撫でしているんだ。

 ――それがわかっていても、ムカつきは抑えられなかった。


「うるさい!」


 私は叫んだ。

 小咲ちゃんが今度こそ顔を青くして周囲を窺う。


「私よりあんたのほうが麻耶と仲よかったって言いたいの? そんなわけない!」


 そんなわけない、と再度心に刻む。

 親友とただの一般人、どちらの言うことを信じなければいけないなんて明白だ。


 はじめと同じ体勢に戻り、莉乃はまたこちらをじっと見つめている。


「まぁまぁ…………え?」


 間に入り何とかこの場を収めようとした小咲ちゃんが、私の背後を見て眉間にしわを寄せた。


 本能的な危険を感じ、すぐに後退しながら振り向く。


 そこにあったのはしわがれた老婆の上半身だった。


 死体かと思ったがそうではない。

 死んでいなければおかしいはずだったのに、老婆は両腕を使い這って少しずつだが私たちのもとへ近づいていた。


「ひぃ」


と喉が鳴る。


 老婆の下半身は強い力で無理やり引きちぎられたようになくなっていて、その断面から彼女の内臓と思われるどす黒い物体がドロドロと落ちてきていた。


 グロいなんてもんじゃない。二度と肉を口に出来なくなりそうだ。

 こっちにこないで。心の中で叫ぶが老婆はひゅーひゅーと苦しみながらも止まろうとしない。


 ――これは。


 自分の中の疑念を確かなものにするため、素人目ではあるものの内臓を一つ一つチェックする。


 大腸、小腸は割とすぐにわかった。

 あれは肝臓かな?

 膵臓……はどんな形だっけ。


 しかし、医療ドラマなどでよく見るあの臓器だけは何度探しても見当たらなかった。


「この人、人魚かもしれない」

「……え?」


 ぼそりと呟いた私に、小咲ちゃんが聞き返す。


「なんか昨日捕まったとき人魚の記憶みたいなのが流れてきて、そのときに十個目の心臓を奪われたって」

「ん? どういうこと?」

「あーえっと、つまり人魚には心臓がなかったの。それでこの女の人にも心臓はなさそうだから、人魚かなって」


 人魚は私の足に手を伸ばせば届くところまで迫っていた。


 ぎょろりと目玉を動かし私を見るその様はとても気持ちいいものではなかったが、瀕死のようである人魚に恐怖は感じない。


「……ァ」


 ん? 何か言った?


 恐る恐る人魚の口元に顔を近づける。


「ワタシニニテル人」


 さぁっと視界が白くなっていく。

 真っ白の世界で、私は人魚を見た。






「こんにちは」


 人魚は今のような老婆の姿ではなく、かつて美しかったあの頃の顔で微笑んでいた。

 濡れた金色の髪がほのかに色気を感じさせる。


「女の座っていた席をさがしてるんでしょ?」

「……そうです」


 やや警戒しながら答えると、それを解くように人魚は優雅にゆっくりと口をひらいた。


「真ん中の右端よ」


 信用にたる情報だろうか。

 人魚は相変わらずニコニコと笑っている。

 冷静に考えてみれば齋藤未希と同じ人外が言っていること。

 信じるほうがおかしい。


「あの、男性の、名前は」


 私が人魚の記憶に触れてしまったことはどこまで知っているのかと探りを入れてみると、


「長兵衛よ」


 微笑みに少し影が落ちた人魚が寂しそうに言った。


「あの人は本当にいい人だった。私は十個の心臓をあげて霊になってしまったけれど、それで正解だったんじゃないかと思えるほどいい人だった」

「そんなわけないじゃないですか……!」


 人魚の悲痛な声色に私は思わず声をあげてしまう。


「ふふ、ありがとう」


 人魚は悲しそうに微笑んだ。


 それは何に対しての感謝なのだろうか。

 心臓を渡すことに抵抗した自分をわかってくれたこと?

 長兵衛をいい人なわけがないと言ってくれたこと?


 どちらにしても。


 この人は、信用してもいい。

 この人は、信用してあげなければ可哀想だ。


 ――私がいないと。


 気づけば私の心は大きく傾いていた。


「じゃあね、がんばって」


 人魚が穏やかに手を振り、視界がぼやけていく。


「ありがとうございました」


 消えゆく人魚に向かって私はきっかり九十度を心がけて礼をした。






「花月ちゃん! 花月ちゃん!!」

「……ん、ごめん」


 人魚に連れられて少し違う次元へと飛んでいたらしい。


 差し伸べる小咲ちゃんの手に掴まって起き上がる。


 足下にはやはり人魚の死体。

 中身を全てぶちまけて干からびたように死んでいた。


「七つの噂をもう一回回ろう」


 私が言うと、小咲ちゃんがけわしい顔になる。


「それは……あんまり効果が期待できない気がする」


 命の危険もあるかもしれないのだ。

 そんな賭けをするならそれ相応の報酬がないとやる気は起きないだろう。


「ジェットコースターの席がわかると言っても?」


 私の言葉に小咲ちゃんは目を丸くする。


「さっき人魚にジェットコースター事故について教えてもらったの。席を教えてもらうまであと一歩だったんだけど、何か邪魔が入っちゃって……」

「じゃあ別の七つの噂に行けばわかるかもしれない?」

「かなりの確率でわかると思う」


 小咲ちゃんの顔がぱぁっと明るくなる。

 男子なら、いや女子でも間違いなく惚れてしまう破壊力。


 そばで聞き耳をたてていた莉乃も少し表情を崩した。


「あと少し、がんばろ」


 私たちは顔を見合わせると歩き出した。

最近更新が遅れがちで申し訳ありません……。

新しく恋愛ファンタジー「恋愛経験0ですが異世界でアイドルはじめます!?」を書き始めました!

花月とはうってかわって、アホだけど一生懸命なオタク女子が主人公です。

下ネタ多めですがおもしろいので!

読んでいただけると嬉しいです(๑ ˙˘˙)/

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