表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/13

4.復讐の決意

「花月ちゃん花月ちゃん」


 優しい誰かの声がきこえ、肩をトントンと叩かれる。


 嫌だ、まだ起きたくない。

 布団に執着する朝のように、じゃりじゃりと音のする砂にしがみつく。


 しかし、


「早く起きろよ!」


 パチンと頬に衝撃が入った。

 少し目を開けると莉乃の怒った顔が見える。

 二波目を恐れて、私はのそのそと起き上がった。


 小咲ちゃん、由真が心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。

 明るくなった世界を見て朝が来たのかと理解する。

 あれほど待ち望んでいた日の出だというのに、あの世界から追い出されてしまったことが全く嬉しくなかった。


「おはよう。よかった」


 優しい声の小咲ちゃんがふんわりと微笑む。

 莉乃と由真もほっと胸を撫で下ろしている。


 全然よくない。


 頭上にジェットコースターのレールがあることには気がついていた。

 莉乃、由真、小咲ちゃんというメンバーが揃っていることを考えてもあれは夢ではなかったのだろう。


「麻耶は」


 私が仏頂面で問いかけると全員が苦い顔になって、そして私に左を見るよう促した。


 そこには麻耶がいた。

 正確には、麻耶だったものがあった。

 高いところから落とされたためだろう、肉片が辺りに飛び散りあれほど美人だった顔もぐしゃぐしゃに潰れている。


 つーっと涙が頬を伝うのを感じた。

 頬の感覚として涙を感じるだけで、自分が泣いているのかと問われればイエスと答えられるか不安なほど静かに涙が流れてくる。

 それは、麻耶が死んだことをまだ受け入れられていないからかもしれなかった。


「もうスマホ使えるから。お家に連絡したら?」


 小咲ちゃんが私のスマホを取り出し差し出してくれた。

 スマホを見ると、何も言わず一夜留守にした娘を心配する連絡がたくさん届いている。

 しかし私はそれを一瞥すると電源を落とした。


 そんな私の反応は予想していたのだろうか。

 一瞬視線を落としたものの、小咲ちゃんはすぐに立ち直る。


「……とりあえず警察に行こう」


 それでもなかなか立ち上がらない私に、彼女は手を伸ばした。


「っ!」


 小咲ちゃんが顔を歪めて自身の右手を左手で庇う。

 私が彼女の手を弾き飛ばしたからだ。


「……」


 莉乃、由真がはっきりと私を責めているのがわかった。

 しかし誰に何と言われようとここを動くつもりはない。

 三人は立ちすくんでいたが、しばらくすると諦めたのか連れ立って去っていった。

 小咲ちゃんの言っていた通り警察に向かうのだろう。


 一人レールの下に取り残されて、私は麻耶の隣に座った。

 こんな砂の上に寝かせてごめんね。少しでも麻耶が痛い思いをしないように、私は麻耶の頭部を持ち上げると正座をした膝の上に乗せる。

 私は世界でたった一人の親友を失った。この人生でもう二度と出会うことはないのだ。

 麻耶……あなたの無念は私が晴らしてあげる。

 右に大きく曲がった、ジェットコースターの車体と同じ赤いレールがこちらを見下ろしていた。






 

 何分何時間経っただろうか。

 小咲ちゃんたちが警官を二人連れて戻ってきた。

 いきなり連れてこられた警官たちは麻耶を見るまで子供の戯言と思っていたのだろう。到着したとたん、その顔から血の気がひいていく。


「小咲ちゃん、莉乃、由真ごめん。すごく悲しいけど、とにかくがんばるしかないよね」


 三人が今にも泣きそうな顔でこちらを見つめる。

 もう大丈夫、と私は微笑んだ。


 既に大体の事情は話しておいてくれたらしい。

 少し取り調べを受けて家に帰ると父と母がぎゅっと抱きしめてくれた。


「辛かったねぇ」


 まあ辛かったけど。

 さらっと答えると両親の質問攻めを遮って自室へ向かう。

 麻耶の血が固まり茶色くなったスカートの一部をはさみで切り取った。

 麻耶の一部分であった血で染まったそれに、ボールペンで書き込む。


 谷由真

 段田莉乃

 若道小咲


 この三人は私から親友を奪った。

 絶対に許さない。


 適当な服に着替えてスマホを弄り欲しい情報を確認すると、そのあとはもう泥のように寝た。

 夢の中に麻耶が出てきて、あまりにもリアルでどちらが現実かわからなくなる。

 目覚ましも合わせていなかったから、いつまで眠るのか自分でもわからなかった。

 夢を見ながらそれが夢だと認識し、そしていつまでも覚めてほしくないと願う。


 タララタララ~♪


 買った当初から変えていないスマホの着信音が鳴った。

 半分だけ目が覚めて、もう一度夢に落ちようとするがスマホは鳴り止まない。

 諦めて、私はそれを手に取った。


「か、花月ちゃん!?」


 小咲ちゃんの焦った声がきこえる。

 次の瞬間、また世界が切り替わった。


 さらさらと風が髪をなびかせる。

 夜の裏野ドリームランド、時刻は午後七時。

 麻耶を除いた四人がまた一同に会した。

 あの惨劇が、また始まる。


「大事なことがわかって、莉乃と由真にはもう伝えたんだけど。花月ちゃんにも言おうと思って電話してたの。間に合わなくてごめんね」


「ううん。大丈夫だよ」


 昨日まで小咲ちゃんは莉乃と由真をちゃん付けで呼んでいたのに。私がいない間にずいぶん仲良くなったらしい。

 ……だとしても私には関係ないことだけど。


「とりあえず作戦たてよ」


 莉乃が言って、私たちは近くのベンチに座った。

 また何が起こるかはわからないので用心はかかさない。


「それで、私に伝えたかったことって何?」


 私が尋ねると、小咲ちゃんは少し声を落として答えた。


「帰ってから裏野ドリームランドについて調べたら、ジェットコースターの事故のことが出てきたの」


 裏野ドリームランドで起こったジェットコースター事故と言えば三年前だ。

 それ以前から経営不振だった裏野ドリームランドが、大金を使い最後の望みをかけて建設したのが当時日本一の長さを誇ったジェットコースター。

 試運転は上手くいき、初めて客を乗せたときにそれは起こった。

 あの赤い車両が無残にバラバラになり地面に落っこちているのをニュースで何度も見たから大変な事故だったのだろう。


 私がそれをつらつらと述べると小咲ちゃんは目を丸くした。


「知ってたの?」

「実は私も帰ってから調べたの」


 申し訳なさそうにそう言うと、小咲ちゃんはううん!と顔の前で両手を振った。


「むしろ話す手間が省けてよかった!」


 あの事故ではまだ若い女の人が一人亡くなったそうだ。

 名前は齋藤未希さん。

 そして小咲ちゃんたちは、その女性が私たちをこんなことに巻き込んでいるのではないかと考えているようだった。


「他に何かわかったことは?」


 私が言うと、


「あの……」


と小さな声で由真が話し出す。


「み、みんなって自分の座った席の位置覚える?」


 その言葉に全員が愕然とした顔になる。

 そう言えば、覚えていない。


「私は麻耶ちゃんの隣に座ったところまでは覚えてるんだけど、何列目のどっち側に座ったかは全く思い出せないんだよね。もしかしてこれ、何かに関係してないかな?」


 すると、莉乃も疑問を口に出した。


「あたしも不思議に思ってたんだけど、何で昨日全員殺されなくてまた今日呼ばれたのかな?」


 うーん、と考え込んだあと小咲ちゃんが切り出す。


「麻耶ちゃんが何か未希さんの怒りに触れることをしたとか」

「それはない! 麻耶だけが特別何かしてたことなんかなかった!」

「そうだよね。それなら何でまた呼ばれたのかって話になるし」


 思わず突っかかった私を小咲ちゃんが諌める。


 はぁ……復讐をするならこんなことで心を乱していてはだめだ。

 微笑みも、行動も、全てを繕って。

 私はこのイカれた世界で麻耶の無念を晴らし私の親友を取り戻すんだ。


 「ごめん」と眉を下げて謝り、代わりに有益と思われる情報を提供した。


「齋藤未希さんってすごく可哀想じゃない? 本来ジェットコースター事故で死者が出たってすごく大きいニュースになるはずなのに、小さなネットニュースでしか扱われなくて。これは噂だけど、遊園地側から圧力がかかったらしい」


「あ! だから私たちにこの事故のことを思い出してほしくてこんなことしてるってこと?」


 前のめりで割り込んできた莉乃に、私は深く頷いた。


「そ、それで事故について知ったかどうかの基準として、事故のとき自分が座っていた席を問題にしてるとか? 麻耶ちゃんは未希さんが事故にあった席に偶然座って殺されてしまったとか」


「座席は六つ空いてたよね! あのときちゃんとした席を選んで空けていたら誰も死なずにクリアだったかも!」


 由真と小咲ちゃんが興奮気味で続く。


「じ、じゃあ、未希さんの座っていた席をーー」


 そこまで言って由真は口をつぐんだ。

 たぶん“調べよう”と言おうとしたのだと思う。

 でもどうやって?

 インターネットは今夜を凌ぐまで繋がらない。

 つまり今夜は神様が助けてくれることを信じて未希さんの席に誰も座らないことを祈るしかないのだ。


「他に方法あるはず!」

「例えば?」

「誰かにきくとか……?」


 せっかく明るくなった空気も台無しだ。

 小咲ちゃんの無理やりなハイテンションが空回りして莉乃を苛立たせる。


 しかし、


「誰かにきいてみるのはいいかもしれない」


 私は言った。


「誰かって……?」


 莉乃が心配そうにキョロキョロと視線を動かす。

 黒い影のことを言っていると思っているんだろう。

 しかし私が考えているのは、そんな不確実なものではない。


「七つの噂さんだよ」


 私はふふ、と不吉に微笑んだ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ