13.彼女
四人もの人間が死亡。連日ニュースを賑わせたセンセーショナルな事件から一週間。
私は退院の日を迎えた。
入院していたといっても念のための検査入院。
友達を四人も一気に亡くし、周囲からはさぞ落ち込んでいるだろうと心配されている私だが、心は無の境地といったところ。
何も感じない。何も、何も。
体が受け入れることを拒否しているのか。
「これはあなたのですか?」
退院前に差し出されたのは私のスマホだ。
「ミラーハウスの中に落ちていました。事件に関係がある可能性があったので中を調べさせていただきました」
すみません、と真摯に頭を下げる若い警官。
若いといってももちろん私より年上の真面目そうな好青年。
「では失礼します」
そう言って去った彼の後ろ姿を、私を抱きかかえるようにした母が睨む。
「あんなひどい目にあったばかりだというのに! デリカシーのない」
「本当だな」
父も同調する。
結局私はお姉ちゃんのことを聞くことをしなかった。
今まで知らなかった存在。忘れていた記憶。
それらを全て受け入れるのはこわかった。つかの間であろうとも安寧に溺れていたい。
だから私はお姉ちゃんの名前も知らない。
左手に包み込んだ恐竜を握りしめる。
スマホを開いた。
282828と打ち込む暗証番号は二月八日の麻耶の誕生日だ。
データを見たと言っていたその内容に特に変わりはなかった。
ろくに話したこともないクラスメイトからたくさんの連絡が入っていて、うんざりと顔をしかめながら全て削除する。
……ん、下書き?
異常を見つけたのはメールのアプリを開いたとき。
基本的にメールを使わない私は、もちろん下書きなんて残した覚えはない。
両親が見送りに来た病院関係者の方々に挨拶をしているのを横目に見ながらスマホを弄る。
下書きに書かれた内容。読んで景色が歪む。
花月と小咲ちゃんへ
もうここから出た?
このメッセージを見つけても助けに来なくていい
口の裂けた女に掴まれて鏡の中に引きずり込まれて、もう出られないから
ずっと真っ暗で頭おかしくなりそう
てか、もうなってるかも笑笑
花月と喧嘩したまんまであたしの彼氏になんか言われたらむかつくから謝っといたる笑
まー花月やったら本音とか隠すの上手いしてきとーに友達作れるんちゃう?
気づいてないみたいやけど地味に天然ひどかったしな笑笑
あの世にいったら麻耶によろしく言っとくわ
いちゃいちゃしたろー笑笑
真っ暗で虫とかいそうで怖い
一生外に出られへんとかまじで意味わからん笑笑
莉乃
裏野ドリームランドに迷いこんだ私と彼女の五日間の記録。
完結しました!
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