素直な気持ち
朝起きると、持っていたおにぎりと煮物、卵焼きは盗まれていた。
私は慌ててポケットの写真を探した。
写真はあった。
よかった。
これだけは無くしたくない。
食べ物を盗まれる事はこんな生活していればあってもしょうがない。
プライバシーなんてないし、防犯なんて言葉はない。
私は小さな公園のすべり台に座り、また何も考えずに時間を過ごしていた。
すると、小さな女の子がこちらに走ってくる。
私は動こうとしたが、動けずにいた。
女の子が
「おじさん、すべり台してるの?」
私は
「ごめんね、座ってただけ。すべり台使うよね。どうぞ」
と立ち上がった。
女の子は
「ありがとう。ねぇ、おじさんも一緒に滑ろう。この高い所から滑ると楽しいよ。それに高いから、いっぱい見えるんだよー」
私は
「おじさんはいいよ。君のすべり台だから。」
高い景色か。こんな風に言われるとは思わなかった。
女の子は
「私のお名前は音葉って言うの。歳はしゃんさいになるの。おじさん、お名前は?」
私は「おじさんは…、悟って言うんだ。音葉ちゃんか。いいお名前だね」
音葉ちゃんは
「うん!」
そう笑顔で答えた。
私は音葉ちゃんがすべり台を何回も滑るのを見て少し笑顔になっていた。
しばらくして、砂場で二人で山を作って遊んだ。
「音葉ー!音葉ー。」
後ろを振り向くと女性が立っていた。
女性は
「すいません。音葉が迷惑をかけて。」
私は「いいえ。」
下を向いた。
こんなホームレスといるなんてショックだろう。
音葉ちゃんが
「ママー、見て。おじさんとこんなに大きなお山作ったんだ。あとしゅべりだいもやった」
音葉ちゃんのお母さんは
「すいません。音葉が色々と。ありがとうございました。さぁ、音葉帰ろう。」
音葉ちゃんは残念そうな顔してこちらを見て
「またね。さとしおじさん。また遊ぼうね」
と手を振った。私は手を軽く振ってお母さんに軽く頭を下げた。
お母さんも頭を下げ、音葉ちゃんと手をつないで帰って行った。
私は少しだけ、別れた妻と子供の事を考えた。
元気にしているだろうか。
また歩いて前の公園に戻った。
私はまたいつものベンチに横になり寝た。
何日か経った。もうお腹も空きすぎて、何も感じない。
なぜかふと歩き出し、前の音葉ちゃんがいた公園にいた。
なんでここに来たんだろ。
私はそう思い帰ろうとした。
すると、小さな女の子の声がした。
しばらく草陰で見ていると、音葉ちゃんが走ってきた。
私はまた一人で来たのか心配になった。
すると後ろから、
「あの、この前の方ですか?」
振り向くと音葉ちゃんのお母さんだった。
私は慌てて
「すいません。気付いたら公園に来ていて」
音葉ちゃんのお母さんは
「いいえ、音葉がずっとあなたが公園に来なくて寂しそうだったんです。毎日公園行く時に、今日はさとしおじさんがいるかなって」
私は
「すいません。私は、…私はホームレスなので、こんな私が音葉ちゃんと遊ぶなんてできません。
音葉ちゃんのお母さんは
「私は気にしてません。あの子があなたの事をお友達とよんでますから。」
私はそう言われ、音葉ちゃんのお母さんと公園に入った。
すると音葉ちゃんが
「ママ早くー!…あっさとしおじしゃん!」
嬉しそうに走ってきた。
私も笑みを浮かべ、手を振った。
音葉ちゃんはまたすべり台から滑るから見ててって私に言う。
何度も滑って遊んでいた。
私は音葉ちゃんがずっと手に握っていた花が気になっていた。
私は
「ねぇ、音葉ちゃん、このお花は?」
音葉ちゃんは
「このお花綺麗でしょ!ママが私にいつもお祈りして、そのあとくれるの」
私は
「 へぇー、きれいだな。お花の名前は?」
音葉ちゃんは
「えっとね、えっとアリフカゴールって言うの。」
私は
「そうなんだ。きれいだねー。
音葉ちゃんも
「うん!このお花すき」
私は少し休憩した。お腹が空いていた事に気づく。
音葉ちゃんのお母さんが
「もし、よかったらどうぞ。」
ペットボトルのお茶と菓子パンをくれた。
私は断ったが、音葉ちゃんのお母さんは遠慮しないでいいですよとくれた。
私は頭を下げ、菓子パンをゆっくり食べた。
音葉ちゃんのお母さんが
「あの子、生まれつき身体が弱くて。あの花はアフリカンマリーゴールドって言うんです。花言葉は逆境を乗り越えて生きるという意味があるそうです。私もあまり花には詳しくないんですけど、何かあの子には強くなって欲しくて。」
私はその花言葉がとても胸に響いた。
私は
「私にも同じぐらいの娘がいます。」
写真を見せた。
音葉ちゃんのお母さんは
「かわいい娘さんですね。奥様も優しそう。」
私は何でこうなったかは、話せないでいた。
やはり他人には話したくない過去。たとえ無罪だったとしても。
音葉ちゃんと最後砂場でお山を作った。
音葉ちゃんが
「このお山の上にこのアリフカの花を咲かせるの」
そう言ってお山のてっぺんに花を添えた。
私思わず、
「とてもきれいだね。お山にお花がたくさんあったらきれいだろうなー。」
とつぶやいていた。
音葉ちゃんはあまり理解してなかったが
「高い所だいしゅき。いっぱい、とおくみれるから」
と言った。
夕方になり、音葉ちゃんのお母さんが座っていたベンチから立ち上がり、
「音葉、帰ろう」
と言った。
音葉ちゃんは
「さとしおじしゃん、また遊ぼうね。明日もいる?」
と聞かれた。
私は黙って笑顔でいた。
音葉ちゃんのお母さんから、
「さとしおじさんは忙しいから、そんな事言ったら困っちゃうでしょ。」
私は
「またね、音葉ちゃん。」
音葉ちゃんは
「またね!バイバイ」
とハイタッチをした。
私は音葉ちゃんとバイバイし、音葉ちゃんのお母さんに深々と頭を下げた。
また音葉ちゃんのお母さんも深々と頭を下げていた。
それにつられるように音葉ちゃんも深々と頭を下げた。
私は親子二人が歩いていく姿を見送った。
そして、いつもの寝床の公園に戻った。
するとあのホームレス支援団体の男性がベンチに座っていた。
私は避けるように引き返そうとした時、
「あの、何度もすいません。追いかけるような真似をしてしまい。でも、あなたを助けたいと思って。」
私はその助けたいという気持ちに今は少しだけ、素直になっていた。