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輝いて咲いた一輪の花  作者: 涙山 原点
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彼は人生そのものを失った。それでも生きる意味とは

私は社会人として働いてきた。

とにかく働いてきた。


決して器用じゃないけど、自分の為、家族の為。

でも、性格がおとなしいからいつも、損な役まりしかなかった。


そして、仕事も失い、家族も失い、いつしか死ぬ事しか考えられない生活になっていた。

そしてホームレス。今は公園で飢えをしのぐ様にじっと過ごす。あてもなく孤独。



もうこのまま死ぬ方が楽だなって。

今まで育ててくれたお父さん、お母さん、ありがとう。


こんな俺についてきてくれた妻と、子供達ありがとう。


もう忘れてください。


目を閉じた。



気づくと知らない部屋にいた。



ここは…?



「気づきましたか。よかった。」


誰?


隣にいた男性が私に声をかける。


私は

「あなたは?」


男性は

「ホームレスを支援してる団体の者です。」


私は保護されたのか。結局死ぬ事も出来ず、人に迷惑をかけてしまった。


男性は

「あなたの名前は?」


「私は…」

名前を言いたくなかった。名前なんてもう死ぬ人間に意味はないと思った。


男性は

「あなた、公園で死のうと思ったのでは?」


私の様な人間は、大抵は生きる目標がなければ死ぬと考える。それをこの男性は知っているのだ。


私は

「はい。もう死にたいです。」


男性は

「何があったか、もしよかったら話してくれませんか?」


私は

「すいません。話ししたくありません。」


男性は

「わかりました。何か話したくなったり、困った事があったら言ってくださいね」


そう言って男性は部屋から出た。


私は久しぶりに布団の上にいる。

ホームレスになってから、毎日公園のベンチや、公園のトイレや段ボールを重ねて寝ていた。


季節は秋。時間は夜。外は寒くなり始めていた。



私は何も言わず、部屋に向かって一礼し、施設を出た。


ここは私の様な人がいる場所ではない。



また外の風が冷たく体に吹き付ける。

手を擦り合わせて、いつもの公園に行く。



すると、子どもと散歩するお父さんがいた。


いつもの寝床のベンチのあたりで少し遊んでいる。



このぐらいの娘が私にもいる。3歳ぐらいかな。


私は目を合わせず、距離を保ち、違うベンチに座る。



今の自分を見たくなかった。

誰にも見られたくない。




うちはビンボーだった。だから、高校までは必死に勉強して、アルバイトもした。


大学はお金が無いから行けなかった。


高校卒業後は、町の工場に勤めた。

一生懸命働いた。

働いて四年半の事。

いつもの優しくしてくれていた上司が定年退職した後、私は職場で嫌がらせを受ける様になった。

内気な私はいつも先輩社員から、からかわれた。

段々とエスカレートし、母が毎日作る弁当など、ゴミ箱に捨てられていた。


私は泣くのをこらえ、ゴミ箱から捨てられていた弁当を拾い、食べれる部分を食べた。


それが気に入らなかったのか、仕事の失敗はすべて私に押し付ける様になった。


いつしか出来ない仕事まで押し付け、その後、上司に目をつけられた。出来ない仕事をなぜ君がやるんだと。


私は思い切って上司に相談したが、事を大きくしたく無いって、地方転勤になった。


その後は転勤先で、迷惑がられ孤立し、話しかけても無視され

誰も仕事を教えてくれず、毎日工場のラインの端で立っていた。

そこの工場長に

「何もしないで突っ立って給料払うほど、うちは甘く無いけど」

と言われ、荷物を外に投げられ、外に出された。


私はそのまま、新幹線に乗った。

そして実家に帰った。

父も母も何も言わなかった。

「おかえり」

それだけだった。

父は脳梗塞で長くないと母は言っていた。

二人とも私と似て、穏やかな父と母。



それから新聞の配達のアルバイトと回転のお寿司屋の皿洗いをやった。


お寿司屋で知り合った女性と結婚。

私と妻の間に女の子が生まれた。


父は孫の顔を見て、嬉しそうに笑っていた。

安心したのか、その後、脳梗塞で亡くなった。

母は本当に父を愛していたんだと思う。


父がいなくなった母は本当に笑わなくなった。いつも、父と早くあの世でまた会いたいと言っていた。


私はまた工場に再就職した。

契約社員だった。それでも家族の為に働く必要があった。


頑張って二年経った頃、工場長から仕事の頑張りが認められて社員にならないかと言われた。

その頃、何年も働いていた契約社員は山の様にいた。

それを素直に喜ばない人達も大勢いた。



私はそのまま、社員登用試験を受け、後は面接だけだった。


だが、ある日白紙に戻された。

ある女性の契約社員が私からセクハラを受けたと訴えたのだ。


私は正直面識もなく、何かの間違いだと思った。


一生懸命、無実だと説明したが、

疑いは晴れず、私はその職場から懲戒処分を受けた。

仕事を失った。

家族に無実だと説明したが、現に会社がクビになった事、セクハラが事情という所で、妻からの信用は失っていた。


最終的に離婚して欲しいとなり、離婚するしかなかった。


離婚後、母はその事がショックで、寝込んでしまい、自殺してしまった。


私は一度に色々と失いもう、生きる意味が見えなくなってしまった。


仕事もせず、気づけば住む場所も失い、行き場がなくなり、路上で生活する様になった。


そんな事をふと思い出していたら、公園にいた親子はいなかった。


今日はここのベンチで寝よう。

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