表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春withゴースト  作者: シトール
5/17

2-1


 八乙女が俺の前に現れてから二週間ほど経過しようとしていた。

 季節は晩春とも言いづらくなり、既に夏の気配をヒシヒシと感じる。

 気温は高くなり、制服も冬服から夏服へと移行し終わった。

 梅雨とは縁遠い土地にあるため、雨量は他に比べて少ないものの、しかし雨の多いこの季節、俺は元気に幽霊に取り憑かれています。


 さて、この数日で八乙女について色々わかった事がある。

 取り憑いて始めの三日間ほどは、俺から離れる事は稀であった八乙女だが、ここ最近はよく一人で学校内や、俺の住む寮の近所を飛び回るようになった。

 本人曰く、

『なんか、結構遠くまで行けるようになった』

 らしく、どうやら今までは遠くまで行くのに難儀していたようだが、いつ頃からか、行動範囲がかなり広まったらしい。

 もしかして取り憑かれレベル的なモノが上がってしまっているのだろうか? その所為で八乙女の行動範囲が広がったとか?

 何がきっかけかはわからないが、八乙女が近くを飛び回っている時間が極端に減ったのは、俺としては嬉しい事であった。

 単独で自由に行動できる時間が増えた事で、最初に俺が始めたのは八乙女寅子と言う人間の情報収拾であった。

 アイツの事を信用していないわけではないが、これからアイツの未練を断ち切ってやるためにも、生前、どんな人物であったかを知るのは重要であると思ったのだ。

 調べると、思いの外簡単に情報が出てきた。


 八乙女寅子 享年 十七歳

 高校二年生の時に交通事故にあって死亡。事故にあった現場は俺の通う学校の隣の地区である。アイツの制服にチラッと見覚えがあったが、どうやら近所の高校のモノであったらしい。

 しかも、亡くなったのは二年前だと言うのだ。

 とすれば、ウチの学校にも八乙女を知っている人がいるかもしれない、と思い、早速裏サイトでも情報を集めてみたのだが、驚いた事に彼女は有名人であった。

 情報を提供してくれたのは、数日前に俺に襲い掛かってきた先輩連中であった。


「あの、えっと、や、八乙女って言えば、近所の高校の女子の事でしょ?」

「し、知ってますよ」

 何故か先輩連中は俺に対して敬語を使うようになっていた。

 まぁ、アレだけ痛めつけられれば軽いトラウマも抱えてしまうだろうか。

「先輩らの中では有名なんですか?」

「俺らの中って言うか……同じ学年で知らないヤツはいないんじゃないですかね」

「二年のヤツらにも知ってる人はいると思いますよ。……ってか、俺らも聞いた話で、実際に会った事はないんですがね」

 八乙女の話をした時、先輩たちは何故か必要以上に怯えていた気がする。

 何だろう、八乙女寅子ってのは忌み語か何かなのだろうか。

「八乙女寅子は、この辺り一帯を暴力で染め上げた女番長の事っスよ。当時は異常な強さを誇ってて、年上の男ですら八乙女には敵わなかったって話です」

「そんなにヤバかったのか……」

 道理で、そんなヤツが憑依した俺は、先輩四人に囲まれてもピンピンしているわけだ。

「じゃあ、八乙女はケンカに明け暮れた学生生活だった、って事ですか?」

「よくは知りませんが、そうだったんじゃないですかねぇ。友達も少なかったって聞きますよ。ケンカするのも一人が多かったって話ですし」

 なるほど、八乙女を成仏させる糸口が見つかった気がするぞ。


****


『ねぇねぇ、知ってるぅ?』

 それはとある日の朝。

 いつも通り、短い通学路を歩いて登校している最中の事であった。

 傍をフヨフヨと浮いていた八乙女が、弾んだ声で話しかけてきた。

『なんだよ?』

『最近、アンタの学校の女子の間で、噂になってるアクセサリーがあるのよ』

『アクセサリ……? ってか、なんでお前がそんな事知ってるんだよ?』

『最近、あたしって結構近所を飛びまわってるでしょ? その時に小耳に挟んだのよ』

 女子の噂好きなのは幽霊も生身も同じか。しかもアクセサリと来たもんだ。

 自らを着飾ることに余念がないからな、女子ってヤツは。

『で、その噂のアクセサリがどうしたって?』

『いやぁ、なんかそういう根も葉もない噂に踊らされる女子って、ちょっと青春っぽくない? しかも噂の内容がどんな願い事も叶う、って話よ? そんなんあるわけないじゃんね? でもそれがなおさら青春っぽいっていうか?』

『幽霊なんていう常識はずれな存在が、普通っぽい事言ってるんじゃねぇよ』

 俺としては幽霊を目の前にしたら、ちょっとぐらい不思議な噂なんて信じてしまいそうになる。現状で、幽霊と念話、幽霊と感覚共有、幽霊に身体を乗っ取られると言う怪奇現象をこの身で味わっているのだ。今更、ちょっと願い事が叶うぐらいが何だというのか。

『アンタは気にならない? 願い事が叶うアクセサリー』

『別に。どうせお前の言うように、根も葉もない噂だろ?』

『アンタ、夢も希望もないようなこと言うのね』

『え? お前の言葉を流用したつもりなんだけど?』

 なにコイツ、自分の不利になることは忘れるタイプなの?

『とにかく、あたしは超気になってるのよ! 探してみようよ、アクセサリー!』

『お前一人で探せば?』

『あたし一人じゃ不便だからって話でしょうが! 幽霊じゃ色々とやりたい事もやれないのよ! だから、アンタが必要なんじゃない!』

『俺にだってやる事はあるんだよ。お前の暇潰しなんかに付き合ってられねぇの!』

『……コロポックルの幹部会とやらへのゴマすりがそんなに大切か』

『俺がそれだけのために生きてる風に言うのやめてくれる?』

 実際、それだけが目的と言うわけではない。

 と言うか、これからの予定としては、八乙女を成仏させてやろうと言う、当初の目的のために動こうとしているのだ。

 そこにあわせてこの物言い……。

『お前、ホントに成仏する気、あるのか?』

『あるに決まってるでしょ。でも、どうやって成仏したら良いか、具体的な方法がわからないわけだし、それまで自由にやったっていいでしょ。それとも……やっぱり、アンタもあたしが邪魔なわけ?』

『あ? どういう意味だよ?』

『もういいわよ。アンタなんかアテにしたあたしが馬鹿だったわ』

 八乙女はムッとした顔を俺に向けた後、校舎の方へと飛んでいってしまった。

 なんなんだ、アイツ……。

「『アンタも』ってどういう意味だよ」

 チッ、ちょっと気になってる自分が悔しい。


 その後、何事もなく教室へとたどり着いたが、授業が始まっても八乙女が帰ってくる気配はなかった。

 どこへ行ったかはしらんが、まぁ八乙女も子供ではないし、いつか帰ってくるだろう。それまでに俺は俺でやる事をやらねばならん。

 さて、まずやる事と言えば、授業中に裏サイトで情報収集……おや?

 俺がスマホのディスプレイを確認すると、そこにはメール着信のアラートが。

 差出人にはメールアドレスが表示されてるって事は、俺の連絡帳には登録されてない人間からか。

 アドレスをパッと見でわかるが、フリーメールのアカウントを適当に取った、いわゆる捨てアドだ。

 見知らぬ人間からの突然のメール。しかも捨てアド。

 怪しむ所は大量にあるが、流石に開いてすぐにウィルス感染するような事はあるまい。一応、そっち方面の対策ソフトもインストールしてあるし、大丈夫だとは思うが……。

 俺は一度、深呼吸をしてからメールを開いた。


――こんにちわ、同士。


 そんな言葉から綴られているメールは、なんとコロポックルからのものだった。

 話には聞いた事があった。

 コロポックルの幹部会から目をつけられ、ある程度の評価が得られた生徒は、エージェントとして認められ、コロポックルから仕事を依頼される事があるとかなんとか。

 半分はホラ話だと思ってたが、まさか実在するとは……。

 いや、これも誰かの悪戯である可能性も充分考えられる。この学校でコロポックルを騙る生徒がいるのだとしたら、かなり命知らずではあると思うが、外部の人間であればそれも考えられない話ではない。

 だがその場合、外部の人間がどうして俺なんかに急に悪戯メールを送るのか、と言う疑問が浮上する。何せ俺は自分で言うのもなんだが、取り留めて論う所もない人間だ。人畜無害で誰に怨みを植え付けるわけでもないこの俺が、どうして悪戯メールの標的になるだろうか。

 それを考えると、このメールが本物であることは充分考えられる。


――君がエージェントとして契約してくれるならば、今日の放課後、校舎二階、図書室にて待つ。色よい返事を期待している。


 完全に信用できるわけではないが……行ってみるか。

 昔の人も言ったしな。虎穴に入らずんば虎児を得ず。

 今がまさに、その時だろう。

 もしコロポックルのエージェントになれば、今よりも格段に動きやすくなる。

 情報収集だって、コロポックルの情報網を一部利用する事だって可能だ。そうなれば八乙女を成仏させてやるのだって楽になるってモンだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ