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青春withゴースト  作者: シトール
12/17

3-3

 俺は二つの選択肢を得た。

 即ち、八乙女と別れるか否かである。

 恐らく、このまま放置しておけば、俺と八乙女とのリンクは断ち切れ、俺は八乙女を認識できなくなるだろう。それは人としてかなり自然な状態であると言って良い。レポートには無理にリンクを継続させると害が出る可能性も示唆されていた。

 しかし、そうしない事も出来る。どうにかこうにか、八乙女を意識化に置き、彼女を認識し続ける事で八乙女と一緒にいる事が出来る。そうすればコロポックルの活動も潤滑にこなせるし、プラスになることも多々あるはずだ。

 こうして選択肢を得た後、俺の中に疑問が湧いた。

 俺は、八乙女をどうしたいのか?

 決定権は俺にある。アイツを意識するもしないも、俺の匙加減一つだ。

 だが、八乙女にも意思がある。これまで一緒にいて、色々と手伝ってくれたし、ヤツの意向を完璧に無視するのは気が引ける。

 八乙女はどうしたいか。それを確かめる必要がある。


「……おい」


 そんな考え事をしながら歩いていると、校門前で声をかけられる。

 ドン、と腹に響く巨大な太鼓のような声。大地も振るえそうな声に、俺の足は縫い付けられたようだった。

 端的に言うならばプレッシャーであった。

 声だけである。その声を聞いただけで、俺は簡単に萎縮させられたのだ。

 嘘だろ、と自嘲しながら俺は声がした方を探る。

 声の元は前方。俺は視線を上げた。

「あ、アンタは……」

 俺の前に立ちふさがった男、この学校の誰もが知り、恐れる男であった。

 やや時代錯誤感のあるボンタンと、裏地に竜虎の刺繍を施した、年季の入った長ラン。

 そんなダボダボの衣服の上からでもわかる鍛え上げられた巨躯。

 鋭い眼光、気合の入ったオールバック。

 他者を威圧して止まないそのオーラ。

 全てを押し付けられて、俺は一瞬、息が止まる。

 喉が詰まり、心臓が痛む。

 なるほど、恐怖とは恋に似ている。

「アンタは……番田長助先輩」

「ほぅ、俺の名前を知っているか」

 学校一の有名人は、そう言って笑った。

 アン先輩に忠告されたばかりだと言うのに、こんなに早くに向こうからアプローチがあるとは……。しかもコロポックルの武力部のトップが自らお出ましとは、厚遇に涙が出てしまうな。

「音に聞く番長さんが、俺みたいな人間に何かご用ですか?」

「用事か、そうだな。お前に一言言っておく」

 ザリザリと砂を踏み、無遠慮に俺との距離を詰めてきた番長は、俺よりも十センチ以上高い目線から見下ろしてくる。

「あまり調子に乗らないことだ」

「な、何のお話ですかな?」

 まともに視線をぶつけられず、俺は斜め横に視界を逃がした。

「番長様のご機嫌を損ねるような事をした覚えがありませんが?」

「これは警告だ。よく覚えておけ」

 言葉の圧力がズシッとのしかかってくる。

 他者を従わせるだけの言霊が宿っているかのようであった。

「蓮野鼎に近付くな」

「……なっ!?」

 思いも寄らぬ名前が飛び出してきた。

 蓮野の名前を聞いて、俺は思わず顔を上げる。

 しかし、番長は既に長ランを翻してこちらに背を向けていた。

「どういうことだ、蓮野とアンタ、どういう関係なんだ!?」

「お前の知ったことではない」

「答えろッ! でなければ、口を出される覚えはない!」

「お前が勝手な振る舞いをするのは一向に構わん。ならばこちらも相応の対応をするだけだからな」

「……どうしても答えないし、俺を蓮野に近づけないって言うんだな?」

「近付くなら相応の覚悟をしろと言っている」

 番長が肩越しにこちらを見た。

 その眼力から発せられる圧力が、俺の足をジリと押し返す。

 だが、ここで負けるわけにはいかない。

「ほぅ、俺のメンチに耐えるか。さっきまでか弱く震えていたのにな」

「黙れ……」

「ならばその胆力に敬意を表し、答えてやろう」

 再び俺に相対した番長は、そのまま俺の胸倉を掴む。

 グイと引っ張り上げられた時に、ようやっと自分の状態を把握できた。

 俺の足が数センチ、浮いている。

「蓮野鼎は俺の女だ。これ以上近付くならば、お前を半殺しにする」

「なん……だと……!?」

 問い返す言葉を吐ききれたかどうかもあやふやだった。

 番長の言葉のインパクト、そして突き飛ばされた衝撃によって、自分の足元が揺らぐのを感じた。

 俺は情けなくも尻餅をつき、放心する。

 蓮野が、番長の女? 彼女って事か? う、ウソだろ?

「本当、なのか……?」

「確かめたいならそうしろ。……だが、お前には他に心配する事があるようだが?」

「……どういう意味だ?」

「いつもつるんでいる女が見当たらんぞ? 探してやったらどうだ」

「いつもつるんでいる女? ……っ!? お前!?」

 追いすがろうとする俺を置いて、番長はそのまま校門を潜っていってしまった。

 本当に情けない事だが、俺は立ち上がって彼を追う事が出来なかった。

 心根に、とんでもない衝撃を受けたのだった。


****


 なんか、色々ありすぎた。

 寮に戻ってきてベッドに横になると、夕飯も摂らずに眠りに落ちてしまった。

 多分、頭が処理しきれずに一旦シャットダウンしたんだと思う。

 気がつくと午前五時。こんな早朝であるにも関わらず、眠たさはない。スッキリとした目覚めであった。

 携帯電話を開き、メールをチェックする。

 アン先輩から仕事の詳細が書かれたメールが届いている。

「よし、」

 呟きながら手軽に身支度を整え、俺は早朝の町へと出かけた。


 動きやすい服装、履き慣れた靴を選び、そのまま近所をジョギングで一周する。

 その間に、頭の中でゴチャついていた物を片付けようと考えたのだ。

 まずは八乙女の事。

 現在も姿を現さないということは、ヤツにもヤツなりの考えがあるのだろう。ヤツとのリンクが切れるにはまだ猶予があるだろうが、あまり悠長にも構えていられない。とは言ってもこればかりは八乙女待ちである。

 俺がどう頑張っても幽体を捕まえてこれるわけもないのだ。アイツが帰ってきた時、改めてその意見を聞いて今後を決定する。

 どちらにしろ決定権は俺にあるのだが、八乙女の意見も聞いておきたい、と言うのは昨日確認したとおりだ。

 次にコロポックルの仕事。これは一番気楽である。

 アン先輩からの詳細によると、犯人は単独犯である事が予測され、かなり優秀な隠密能力を有しているという。しかし、写真を見れば幾つもの情報が出てくるモノだ。隠し撮りのポイントは幾つか発見されており、そこから足取りを追えば犯人に当たるのも遠くはあるまい。

 最後に番長と蓮野のこと。これは……厄介である。

 解決するための手法としては、一番手っ取り早いのは蓮野に直接聞いてみることだ。その答え如何によっては、俺のハートがブレイクしてしまう可能性があるが……。

 そのため、そんな直接的な手法をとるのに、俺の本能が断固拒否をしている。

 とは言ってもそれ以外の方法を取って、情報が外側から明確化されることによって、ジワジワと真綿を締める様に心を殺されるのも嫌だ。

 結局、俺はあの二人の関係について、あまり触れたくないのかもしれない。

 番長がああ言ったのならば、俺はもう身を引くべきなのでは? 元々俺と蓮野は単なる友人である。それ以上の関係にはなれなかった。これ以上、蓮野の周りには近づかない方が良いのかもしれない。

 ……いや、だがそれでいいのか?

 もし諦めるのだとしても、もっと気持ちのいい終わり方があるはずだ。

 こんな釈然としない……あんな男からいきなり突きつけられた言葉をそのまま鵜呑みにして泣き寝入りなんて、恰好悪すぎるだろ。

 どんな結果に転がろうとも、蓮野に直接聞いてみたほうが良い。その方が俺の精神衛生上も良いことである。

 たとえ結果としてハートブレイクしたとしても、その後には強い心が身につくはずだ!

 そんな事を考えていると、寮の入り口まで戻ってきていた。

 軽くにじんだ汗を拭い、俺は気持ちも新たに一歩を踏み出す決意をしたのだった。

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