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青春withゴースト  作者: シトール
10/17

3-1


 月末の最終日曜日になり、俺の顔は顔面蒼白となる。

 家計簿などつけるようなマメな性格はしていないが、金勘定はしっかりとしている。

 だが、仕送りと共に立てる計画より、何故か千円足りない。

「おかしい! 絶対おかしい!」

 ガチャガチャと寮の部屋のドアを調べる。

 鍵は壊れていないし、突破された様子もない。

 ベランダの鍵はあまり開けないし、ここ最近開けた記憶もない。

 他に侵入口らしい場所はない。

 と言う事は、盗まれたわけではないのだろうか?

 いや、まだ可能性はある。

『八乙女ぇ!!』

 俺がワンルーム部屋の真ん中で大声を上げると、天井から八乙女が顔を出す。

『何よ、大声で。ってか、念話で大声ってアンタ、器用ね』

『んな事ぁどうでも良いんだよ! テメェ、俺の千円の行方を知っているだろう!?』

『……千円? いきなりどうしたのよ?』

『事前の計画よりも、千円足りないんだよ! これが新手の超能力攻撃でなければ、俺は知らない内に凄腕のスリ師に財布をスられ、千円だけ抜き取られた後、また財布を戻された事になるよなぁ!?』

『千円ぐらい良いじゃない。みみっちぃ男ね』

『いい事あるかぁ! こちとら、親元を離れて一人暮らししてる苦学生だぞ! 一円一銭が大事なんじゃボケぇ!』

『じゃあバイトぐらいしなさいよ。もっと有効にお金が使えるわよ』

『そういう話をしてるんじゃねーんだよ! 金に困ってるなら、それこそバイトなりなんなりしますよ!? でもな、それとこれとは話が別だろーよ! 今は金がなくなった事を問題にしてるの! 元々金がない事はどーでもいーの! よくないけど!』

『あー、はいはい。つまり、アンタはその千円の行方がわかれば、どうにかそのうるさい口を閉じるわけね?』

『念話だから口は開いてませんー!』

『さっきからアホみたいに大口開けてるわよ、アンタ』

 おっと、怒りに忘れて口を開けてしまっていたか……これでは美男子が台無しだな。

『ともかく、千円の行方を知らんかね、貴様』

『上から目線の態度、改めた方がいいわよ……。うん、千円の話だったわね』

 俺がまた面倒くさい顔で睨みつけてやると、八乙女は呆れたように話を戻した。

『もしかして、とは思うけど、アンタ、自分で使った千円を忘れてるわけじゃないわよね?』

『俺が? いつ? なんで? そんな無駄遣いをした覚えはない!』

『ゲーセン』

『……は?』

『ゲーセン、行ったでしょ?』

『そんな所に行くわけが……いや、待てよ?』

 そういわれてみれば、ここ最近、ゲームセンターに足を踏み入れたような覚えがある。

 あれは、いつだったか……。

『そ、そうか! あのアクセサリ露天商の居場所を突き止めた帰り道!』

 あの時、八乙女が遊んで行きたい、とゴネたので、ちょっとゲームセンターに寄ったのだった。そして、その時使った金額が奇しくも千円!

『な、なるほど……俺が受けた超能力攻撃は、千円を紛失する能力ではなく、記憶を一部欠落させる能力だったのか』

『単にアンタの鳥頭が記憶を放棄しただけでしょ』

『も、元はといえば、お前がゲーセンに行きたいって言ったからいけないんだぞ』

『うわ、責任転嫁! 最低だわ、コイツ』

 くっ、自分でも言葉を重ねれば重ねるほど、自らの品位を落としているのがわかる。

 ちょっとでも、俺が知らない内に八乙女が何かしたのではないか、と疑ってしまった自分が情けない。

『……よかろう、八乙女。変に声を荒げてしまった事は詫びよう』

『別に、今に始まった事じゃないし、気にしないけど』

『しかし、問題はこの千円がなくなってしまったがゆえに、仕送りが来るまでの残りの数日、食費をどう捻出するかと言う事だ。千円あれば、一週間は生き延びられるぞ』

 我が実家の財布の紐を握っているのは、他家と変わらず、母親の仕事である。

 彼女が俺の仕送りに関しても一任しているのだが……ヤツは思いの外、気分屋である。

 端的に言うと、仕送りの日にちが一定ではない。

 いつも月始めの一週目か二週目頭ぐらいにやってくるのだが、その期間が定まらないためにこちらとしてはスケジューリングが難しいのである。

 当然、安全を取るならば現時点までの最遅を想定して動かなければならない。

 つまり、これから一週間から十日ぐらいは覚悟しなければならないわけだ。

 そんな時期に千円のマイナス。

 もっと早くに気付けば何とかなったかもしれないが、時既に遅し。

 しかし、そんな話をしても、何故だか八乙女は怪訝そうな顔をしている。

『アンタ、食を軽視しすぎでしょ。どう頑張ったって一日百円ちょっとじゃ生き残れないわよ』

『寮では朝食と夕食が出るからな。問題は昼飯だけなのだ。昼だけなら大き目のカップ麺をスーパーで買えば、学食でお湯を貰って食べる事が出来る。そしてその出費は百円から百五十円くらい。よって、一週間を生き延びる事は可能。はい論破』

『うわ、ウザッ! 言い方がウザい!』

『ふふ、俺様を甘く見た貴様の落ち度よ』

『あー、なんかもー、あたしの気も削がれるわ。折角あたしが何か作ってやろうと思ったのに』

『……ん? 今なんて?』

『ご飯ぐらい、あたしが作ってやろう、って言ったの。材料を纏め買いとかしたら、かなり経済的でしょ? 多分、仕送りの日までは持つんじゃない? 寮の食堂から調味料とか借りられれば、簡単なお弁当なら作れるわよ』

『……え、マジで? 料理とか出来んの?』

 コイツ、確か生前、近所の不良の誰もが震えがる女番長だったよな?

 そんな女が料理? まともなモノが出てくるとは思えないんだけど? まずい飯でスズメの涙の食費を消費されたらかなりイラつくけど?

『もしかして、アンタ、あたしの料理の腕を疑ってるわけ?』

『そりゃそうだろ。伝説の女喧嘩屋が料理得意とか、ギャップ萌えの人間が見たら卒倒するレベルだぞ』

『ほぅ……そこまで言うか』

 八乙女の視線から敵意を感じる。

 幽霊と言う事を差し引いても、この寒気はやはり女番長の貫禄と言う事か。

『わかったわ。そこまで言うなら、あたしの作る弁当が不味かったら、アンタの言う事なんでも一つ、聞いてあげる』

『お? 言ったな? じゃあもし、お前の作る料理が美味かったら、俺だって一つ言う事聞いてやるよ』

『その言葉、忘れるんじゃないわよ』

 うっ、この自信の溢れる表情……売り言葉に買い言葉とは言え、少し安請け合いしすぎたか……!?

 いや、だが吐いたツバは飲めない。男に二言はない。

 こうして、俺と八乙女の賭けが始まるのであった。


 本日が日曜日と言う事もあり、早速近所のスーパーに赴き、明日の弁当の材料を買う。

『なぁ、八乙女……本当に大丈夫なんだろうな?』

「あたしを信用しなさいっての」

 現在、俺の身体を八乙女に貸し与え、買い物を任せているが……なんか値段を見ずに品物をカゴに突っ込んでる気がする。

『ちゃんと予算は伝えたよな? アレをオーバーしたら賭けどころの話じゃなくなるんだからな?』

「わーかってるっての。ちょっとはあたしを信用しなさいよ」

 いまいち信用が置けん……。

 コイツ、他人の財布だからって好き勝手にモノを購入するんじゃなかろうか。

「そう言えばアンタ、何か嫌いなものとかあるの?」

『いや、特には。あんまり奇特なものでなければ食えなくはない』

「じゃあ、おかずはあたしの得意なものにしようかしらね」

『得意料理とかあるのか』

「まぁねぇ。取っておきのザンギを食わせてやるわよ」

『……ザンギ? エフ?』

「ソビエトの赤い竜巻は関係ないわよ。あたしの母親の故郷では、鶏肉のから揚げをザンギって言うのよ。まぁ、から揚げだと思っておけばあんまり間違ってないわ」

『じゃあから揚げって言えよ』

「うっさいな。あたしはこれまでもこれからも、ザンギはザンギって呼ぶの」

 なんか良くわからないポリシーを教えられてしまった。

 まぁ、別にコイツがから揚げの事をなんて呼ぼうがどうでも良いんだけど。

「あとは、アレとアレかな……」

『アレってなんだよ。一服盛られたら溜まらんぞ』

「弁当の中身は知らないほうが、楽しみが出来ていいわよ?」

『むっ、それも理のある論であるな』

 妙に説得力のある八乙女の言葉に騙され、俺はそれ以降、コイツの買い物には口を出さなかった。


『おかしい、レシートに書かれてある金額がやたら高い。その上、なけなしの貯金が削られている』

「後々、楽させてやるって。気にしない気にしない」

 コイツ……事前に予算を伝えておいたのに、簡単にオーバーしやがった。

 マジで金銭的にヤバいんだが、これで弁当まで不味かったらホントに……お祓いを考えるレベルだぞ。お祓いにも洒落にならない金額が必要なんだけど。

「アンタ、今日の昼はどうするの?」

『休みの日は寮の食堂で出てるよ。お前、今まで何を見てたんだ』

「アンタの生活サイクルなんて全部把握してるわけないでしょ。まぁ、昼が出るなら良かったわ。明日の弁当の事に集中できる」

『本当に大丈夫なんだろうな?』

「疑り深いヤツだな……任せておきなさいって。一週間分の献立は考えてあるんだから」

 堂々と胸を張る八乙女(俺の身体)を見ながら、やはり俺はどこか信用しきれていなかった。


****


 さて、問題の月曜日である。

 午前中は、八乙女のヤツが俺の近くを漂いながら、ずっとドヤ顔をこちらに向けてくるから物凄くウザかったが、やっと関ヶ原の昼休みである。

『天気も良いし、外で食べたら?』

 と言う八乙女の提案に乗っかり、俺は学校の中庭にあるベンチへとやってきた。

 持ってきたこの弁当、先日の会話の通り、中身は見ていない。

 八乙女が俺の身体を乗っ取って作っている間も、俺は別の所をフラフラして時間を潰していたので、この箱、鬼が出るか蛇が出るか。

『さて、じゃあ開けるぞ』

『どうぞどうぞ』

 自信満々の八乙女は、朝から続くドヤ顔で俺を見下ろしている。

 くそ、何だこのブレない自信は……。

 まさか、本当に……美味い、のか?

 こうなってくると、弁当箱を包んでいるランチマットを開くのすら怖い……ッ!

俺は負ける……のかッ!?

「先輩」

「……ん?」

「何を一人で百面相してるんですか。いえ、百面相というにはバリエーションが少なかったですけど」

 声をかけられたのでそちらを見てみると、そこには蓮野が立っていた。

「おや、蓮野じゃないか。どうしたんだこんなところで」

「図書室の窓から先輩が見えたので、からかいにきました」

 コイツ、面と向かってからかいに来たとは……言うようになったじゃないか。

 しかし、図書室の窓、か。

 確かにここからだと、図書室の窓際の席が見えるな。

「先輩はここでお弁当ですか?」

「ああ、今日はちょっと、勝負の日でね」

「勝負……? よくわかりませんけど、お邪魔でしたらまた今度にします」

「珍しい。蓮野が俺に何かご用事?」

「ええ。……先輩ぐらいしか相談が出来そうな人間に思い当たらなかったもので」

「頼ってくれるとは嬉しいね。俺は構わんよ。飯を食いながらでもお話は出来る人間だ」

「ながら食いは行儀がよくありません」

「そうかもしれんが、蓮野のお願いを聞く、またとないチャンスは逃せないだろ。ほら、ベンチ空けるから、そこに座りな」

 俺が腰を浮かして、ベンチのど真ん中から避けると、しばらくベンチを睨みつけていた蓮野は、小さく『失礼します』と言ってベンチの端の端に座った。

「そんなに端に寄らなくても良いだろ……先輩だって傷ついちゃうぞ」

「あ、いえ、別に先輩が気持ち悪いから近寄りたくないとかではなくて」

「くっ、蓮野は俺の事をそんな風に思っていたのか!」

「ええ、割りといつも」

 この娘は歯に布着せない物言いと言うスタンスを崩さないなぁ。

 まぁ、その辺も気持ちがいいといえば気持ちが良い。

 下手に取り繕う輩とはちょっと違う味がする。

「で、俺にお願いって何だよ?」

「先輩は……この学校の女子の写真が売られている事、知ってますか?」

「学生ブロマイドの事か?」

 説明しよう。学生ブロマイドとは、その名の通り、学生の写真である。

 主に写真部が学生のスナップ写真を撮り、それを売りさばく事で儲けを出している。因みにこれにもコロポックルが噛んでいたりする。

 この学生ブロマイドにはかなりの制限があり、被写体の恥ずかしい写真は撮っちゃダメとか、複数人数が写っているものに関しては価値が下がるとか、特に厳しく制限されているのは、撮影して良い場所である。

 この場所は良い、この場所はダメ、と細かく区分けされており、それに違反した者はかなり重大な罰を受ける事になる。数年に一度、写真部の血気盛んな若者が、その制限を飛び越えようとして失敗し、墜落した先は見るも無残な地獄の底、と言うまさに因果応報を味わっているとか何とか。

「まさか蓮野がそれを知っているとは思わなかったな」

「私も、つい最近までは知りませんでした。でも、クラスの人たちが噂話とかでその学生ブロマイドの事を話したりしてて……」

 実はこの学生ブロマイド、裏商売ではあるものの割りと簡単にその辺で売っているので、ちょっと調べればすぐに購入する事が可能である。

 極一般の健全な生徒たちは全く関わらずに三年間を過ごすだろうが、学生ブロマイドぐらいはコロポックルの秘密と言うほどのモノではない。

 実際に、この学生ブロマイドは多くの生徒に受け入れられており、各生徒の人気の指標にもなっているのだ。この生徒のブロマイドは高い、この生徒のは安いとか、そういう格差がつけられたりしている。

 例えば、美人で有名な三年生の先輩、間宮響子先輩のブロマイドなど、一枚数千円の値がつくこともあるのだ。今日日、後生大事に好きな人の写真を胸元に忍ばせておくようなストイックな輩がいるとは思えないが、事実、その写真に高値が付けられている事は確認できる。

 今は夏、年度が始まって数ヶ月が経っている。一年女子の間でも、このブロマイドを自分のステータスにするような人間が出てくる時期なのだろう。蓮野が噂話で小耳に挟むのもありえない話ではない。

「なに? 蓮野もブロマイド、撮られたくなった? 俺が綺麗なのを撮ってやろうか?」

「やめてください、変態」

「うわ、バッサリ」

「そうじゃなくて……クラスメイトの一人が、その……いかがわしい写真を撮られた、って言って泣いてたんです」

「……は?」

 蓮野の言葉は寝耳に水だった。

「嘘だろ? 学生ブロマイドはやらしい写真禁止だっただろ?」

「そうなんですか? いえ、でも実際、その写真が幾つか出回っているみたいなんです。だからその……どうしたらいいのかなって」

「マジかよ……」

 蓮野が嘘をついているようには見えないし、こんな嘘をついて何の得があるのかもわからない。恐らくは真実。

 だとしたら、どういう事なのだろうか?

 先も述べたとおり、学生ブロマイドの撮影場所は厳しく制限されている。その上、流通する写真にもかなり厳しいチェックがなされているはずなのだ。コロポックル女性部の監視の目はかなりキツイ。

 その目をかいくぐって、誰かがやらしい学生ブロマイドをばら撒いている?

「……先輩?」

「ん、ああ。スマンな。……俺も出来る限り調べてみるよ」

「ホントですか? あ、でもばら撒いてる人を見つけて、その後どうしたらいいんでしょう?」

「そりゃ学校にしょっ引いてもらうなり何なり、好きなようにするさ。蓮野はドーンと任せておけばいい」

 胸を叩いてみせると、蓮野は小さく笑った。

「少し、安心しました」

「そっちの事は俺がやっておくから、蓮野は危ない真似とかするなよ?」

「わかってますよ。兄にも注意されてますし」

 そう言えば、蓮野は兄がいるのだったな。

 どんな人間かは知らないが、その兄とやらも馬鹿でなければ、妹を危ない所に突っ込ませたりはするまい。

「蓮野はそのお兄さんのところでゆっくりと待っておくがいい。ディテクター俺様が見事に事件を解決してみせよう」

「……急に不安が押し寄せてきました」

「なんだとぅ」

「でも、今回は信用してあげます。だから、お願いしますね」

 立ち上がった蓮野はペコリと頭を下げ、そのまま中庭を駆けていった。

 信用されてしまっては仕方がないな。全力で事にあたらねばなるまい。

『ちょっと! 聞いてるの!?』

「うわっ!?」

 いきなり頭の中に声が響き渡る。

 何事かと思ったら、すぐ近くで八乙女が大声を出していた。

『急に大声を出すんじゃない! ビックリするだろうが!』

『急にじゃないわよ! さっきから何度も声かけてるでしょ!?』

『はぁ!? 全然聞こえてなかったんだけど!?』

『聞こえて……ない? そんなわけないでしょ、どんだけ大声出したと思ってるのよ!』

『そんな事言ったって、聞こえてないもんは聞こえてない。ってか、いつから声をかけてたんだよ?』

『その学生ブロマイド? ってヤツの話が出てからよ』

 記憶を掘り返してみるが、やはり声をかけられた記憶はない。

 急に耳が遠くなったわけでもないだろうし、今、八乙女と話す事が出来ているなら、念話が出来なくなったと言うわけではないだろう。

 だとしたら……一瞬電波が悪くなったとか?

『アンタ、まさかホントに聞こえてなかったの?』

『そう言ってるだろ』

『……ウソ。ホントに?』

『何度もしつこいな。こんな嘘をついて何の得があるって言うんだ』

『それもそうよね……って事は』

『なにか心当たりがあるのか?』

 俺の質問に、八乙女は言いよどんだ。

 たっぷり数十秒、視線を泳がせ、何度か口を開け閉めした後、ようやっとその言葉を吐き出す。

『……もしかしたら、アンタとはもうすぐお別れかもね』

『……はぁ?』

 言っている意味がよくわからなかった。

 コイツ、お別れって言ったのか? お別れって、あのお別れ? 離別って言う意味?

 なに言ってんだコイツ、俺ぐらいしかまともに相手が出来ないと知っているクセに。

『どういう事だよ?』

『アンタはあの蓮野ちゃんって娘にご執心だね、って事よ、バカ!』

『はぁ? あ、おい、八乙女!?』

 その真意を確かめようとすると、八乙女は何を答えるでもなく、そのままフラフラと空を飛んで、校舎の中へと消えていった。

 もうすぐお別れ? どういうことだ? アイツが成仏するって事か?

 いや、アイツの無念は晴れていないはず。……いないよな? じゃあ多分、成仏って事じゃないんだと思う。だとしたら、何だろう?

 俺がアイツの声を聞き取れなかったのと、どういう関係がある?

 疑問ばかりが自分の中に膨れ上がり、結局弁当を食ったのは昼休みの終わり際だった。

 弁当はとても美味かった。

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