プロローグ
プロローグ
学校は社会の縮図、と言われることがあるが、それはまさに、だと思う。
教師や組織などの権力を持った者たちがいて、それに支配されるかのように生徒たちが毎日登校し、ルールを強いられながら小さな娯楽を見つけ、何とか生活をしていく。
その中では体制に反対する者もいるだろう。従順なヤツもいるだろう。
我関せずとただただ勉学だけをこなす者や、部活に意義を見つけて汗を流す連中だっているはずだ。
または友情や恋愛に熱心になりバラ色の高校生活を楽しむ者たちもいるだろう。
そんな学生の情熱が様々な方向に向かっている学校と言う箱は、確かに社会の縮図であるように感じる。
多種多様な人間模様が、この大きな高校の中でも渦巻いている。
そんな中、俺はと言うと至極普通であった。
学業成績、運動、ルックス、交友関係、何もかもがアベレージぐらいをフラフラしている、取り留めて何を言う事もない、普通の高校生。
友人もそこそこいるが彼女は居らず、授業中は友人とつまらねーくだらねーと適当な悪態をつきながらこなし、昼食時にはたまに見るカップルがおいしそうに弁当を突いているのをひがみながらつめたい弁当を突く。
放課後になれば友人と適当に遊びに行き、飽きると学生寮に戻る。
自室では特に予習復習などせず、適当にゲームをして遊び、飽きたら寝る。
朝起きて、学校へ行って、遊んで、寝る。
この繰り返し。
部活も入っていないし、委員会にも所属していない。
学校生活をほぼ無為に過ごしていると自覚している程度の、何の面白みもない人間であった。
だが、そんな俺が奇異な事件に巻き込まれることもある。
時節は春。俺も高校二年生になってすぐの頃だ。
春休みが終わり、一年生の入学式も済んで、バタバタした新年度開始の時期が終わり、青葉の季節と呼ばれる頃合いである。
「な、っんで! 俺が……っ!」
夜の繁華街を、俺は息も切れ切れになりながら駆け回っていた。
理由は簡単。追われているからだ。
人間、怖い顔をした男共に、急に追いかけられると反射的に逃げてしまうものである。
「コルルァ! 待てや、ボケぇ!」
「待たんと半殺しじゃなくて全殺しやぞぉ!」
俺を追いかける男たちの声が聞こえる。かなり殺気だっているようだが、断じて言おう。俺の身に覚えはない。
先述したとおり、俺は取りとめて何を論う事もない男だ。そうであるように俺自身が努めている節すらもある。こんな妙ちきりんな事件に巻き込まれる事なんかは、特に嫌うべき事態であったのだ。
そんな俺が、あんなヤツらに追われる覚え? あるわけないだろう。
だが、身に覚えがなくとも追われると逃げてしまう。更にあんな脅しとも取れる罵声を浴びせられては、捕まってはいけないと思ってしまっても仕方がないのではなかろうか。つまり俺には全く後ろ暗い事はないのに逃げてしまうというのは、生物の本能として全く不自然のない当然の行動といえるわけで――ってあぁ、そんな事を考えてる場合じゃない。
「次はそこの路地を曲がって、先を行ったところの大通りに出て、また路地へ……」
口に出して冷静さを保ちながら、俺は次の逃げ道を頭の中に描く。
幸い、この辺りは何度も歩き回った事もあり、地図は大体頭に入っている。致命的に下手を踏まなければ逃げ切れる……はずだったのだが。
「こっちに来たぞ、追い込め!」
「げぇ!?」
俺が路地を曲がると、前方の道を塞ぐようにして追っ手らしき男共が数名、待機していた。どうやら俺は逃げているつもりが追い込まれていただけらしい。
背後からも足音が近付いてきており、前方はふさがれ、横は全て建物が囲み、入れそうなドアもなく……ば、万事休す!
「死ねぇゴルルァ!」
「往生せいやぁ!」
「覚悟しろボケェ!」
色とりどりの脅し文句を口々に吐き出しながら、ガラの悪い連中は俺との距離をどんどん縮めてくる。このままでは本当に三枚卸にされてしまう!
と、その時である。
『助けてあげようか?』
どこからともなく聞こえてきた女の子の声。
天から垂れた蜘蛛の糸のごとき言葉に、俺は一も二もなく飛びついた。
それが俺の苦難の始まりであった。




