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ドン底のダンス

学校とは社会の縮図である。

強い者が徳をし、弱い者が損をする。これは最早社会のルールで何処に居ようと逃れることができないのだろう。

そしてある意味では社会という「本番」よりも学校という「練習の場」の方が辛く苦しいこともある。

いずれにせよ競争社会において牙も生えそろっていない一匹狼が生きていく術などない。能ある鷹は爪を隠すというが、能もなく爪もなく、また牙もない俺は雄として生まれてしまったことを呪うしかないのだ。


放課後俺はグランドにいた。

理由は不良君たちと野球をするためである。そしてポジションはキャッチャー攻守交代もなく特別ルールで俺は手をバックネットに縛られたまま、身体全体をつかってボールをキャッチする。

「おーいタカトー一球目いっくよー」

そう言って金髪オールバックは笑いながら俺目がけて豪速球を投げた。

ドスッ!!「ゔっ……ぁ………っ…」

泣きそうである。マジで痛い。多分暫定一位くらいの痛さである。

「おいおい、これくらいでへばってちゃ二時間持たないぜー」

そう言うとオーディエンスもやる気になったのか、

「次は俺の番ねー」

と、次々にボールを構え出す。

「それでは二球目行きまーっす」

ヒュンッ ガシィ!!俺の顔を数センチで横切った玉がフェンスに刺さる。

「おいぃ外すなよー」

俺の安堵もいざ知らずチンピラ集団は三球目の準備をする。

もう逃げることはできないということを痛感した俺は現実と向き合うのをやめ、痛みを和らげるために物思いにふけることにした。


事の発端は今朝登校してすぐだった。

駐輪場に通学用に使っている自転車を止めに行った時、チンピラ集団の下っ端からカツアゲにあった。

だがそれはいつものことで、奴らはめぼしい人間をマークしていて常に見張っているのだ。

問題はここからだった。

高校二年も中盤を迎え日々続くストレすと不甲斐ない自分に嫌気がさして通行量を払わずに素通りしようとした。

もう…なんていうか、魔が差した今朝の自分をぶっ飛ばしたい。

ナメた態度に瞬時に反応した下っ端達は俺を取り囲み問いつめた。

「おい、テメェ今自分が何してるか分かってるか?」

静かな威圧におれは

「はっハヒィ!!す、すみません!!きっきょうは、お金を忘れちゃいましてっ……」

すると下っ端集団のリーダーと思わしき男が

「オイッお前ら、そいつ捕まえろ」

「ハイ」

羽交い締めにされた俺はリーダーにまさぐられ、終に

「……おい……あんじゃねーか……それに二万も」

「お前バイトしてないっつってなかったか?」

「まぁいいか、放課後楽しみにしとけよー」

笑いながら去って行く彼らを呆然と見送る俺に、人生終了のチャイムが鳴った。


もう何発食らったかも分からなくなったところで金髪オールバックが

「よしっ俺もー飽きてきたからあと十球で許してやるよ」

「うひゃー中山さんやっさしー」

悔しいがその発言はいまの俺にとってはすくいの手だった。

そして

「一球目ー」ヒュンッ ドスッ!!

「ゔっ……」あと九球

「二球目ー」ヒュンッ ドスッ!!

あと八球

「三球目ー」ヒュンッ ドスッ!!

あと七球

「三球目ー……」

っ!!「ヒュンッ」

ドスッ「がぁ!!……っあ……」

二回目の三球目が直撃した。そして言葉にならない絶望感が俺を襲う

「中山サーン次四球目ッスよー」

「ハハッわりぃわりぃつい間違えちゃったよー」

「うわっヒデェーwww」

「んじゃ、気負とり直してー………

……三球目ーっ!!」ヒュンッ ドスッ!!

ここでようやく最初からピエロだったのだと気づいた。

「三球目ー」四回目の三球目

「三球目ー」五回目の三球目

「三球目ー」六回目の三球目

七回目の三球目八回目の三球目九回目の三球目十回目の三十一回目の三十二回目のさんさんさんさんさんさんさんさんさん……


「十球目ー」ヒュンッ ドスッ

「んじゃ明日からもよろしくなー」


気づけばグランドは俺一人だった。 

一面には俺が踊ったあとが広がり、心配してくれる人や俺の道化ぶりを楽しんでたひとももういなくなっていた。

すると、

「またあの人達にやられたの?」

悲しそうで…それでいて優しい顔が俺の方を向いていた。

「なんで誰にも助けを求めないの?私先生にいってくるねっ」ガッシッ

「なんで掴むの?」

同情も慰めも要らない。全てが不公平で、あるいは全てが公平だった生存競争に敗れただけだ。

地を這い泥をすすり嘘をはく。全てが自己責任で確かな信念が俺にはあった。

結局あいてを貶めるのも自由で、また抗うのも本人の自由だった。

なら継ぎはぎの心で強がることも自由なのだろうか、いや許されていいはずだ。

と、自問自答をしてみても答えの正当性を確かめる事はできないので、取りあえず


「どん底のダンスは楽しんでもらえたかな?」

精一杯気持ち悪く笑ってみせた。



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