さよなら父さんこんちわメイデン
「アイアンメイデンじゃねえか!!」
アイアンメイデンとは、ドイツ辺り発祥の拷問器具、バートリーとか言う女が、自身の美しさを追求した結果に作られた、元は美容器具(白目)。
「どーだ雄平、お父さんの言った通りの子だろー?」
「あぁ………確かに言った通りだけど、何か違う!!」
机の台を思いっきり両手で叩く、期待と残念が入り混じった感情を、机に(文字通り)ぶつけた。
親父は何がいけないのか、と言う顔で困惑している。
アイアンメイデン持って来る時点で頭おかしいだろ。
「な、何がいけないんだ!? ちょっと冷たい所があるけど、聖母マリアの様に美しく、ツンツンしてるじゃないか!!」
なあそれ本気で言ってる?それ、ならこっちも本気でいくからな。
「鉄だから冷たいに決まってんだろ!! ツンツンしてる?そりゃあ拷問器具だから針はついてんだろぉが!!デレも何もねぇよ!!」
「つーか聖母マリアの様だって、モデルが聖母マリア(らしい)から当たり前じゃねぇか!!つーか血の気が多いってそういう意味か!? 拷問し終わった後のそういう状態か!?」
「でもお前、貧乳好きだろ?」
「無機物に胸も尻もいるかあああああああああああああああ!!! つーかあったら逆に怖いわぁあああああああああ!!!」
「だ、だがな。意外と包容力はあるぞ?」
「抱擁の間違いだろ、なあ、それ抱擁の間違いだろ?つーか抱擁=死じゃねえかよ、何で毎度抱きしめる為に血だらけにならなきゃいけないんだよ」
「な、何か、すまん」
よし、勝った。
何だろうな、無駄に熱いツッコミをしちまった。
三ヶ月ぶりの親父の顔を見たせいだろうか、それとも、このアイアンメイデンが出てきたからだろうか?
「そうか………でもなぁ、一応許婚だし、会うだけあって見ないか?」
「はあ?もう会ってるじゃねえか………ほら。アイアンメイデンが許婚なんだろ?」
「いや、ソレは仮の姿、本来の姿はその中に隠している、カモーンアイアンメイデン!!」
アイアンメイデンの腹の扉がゆっくりと開く、何故か冷気の様なものがアイアンメイデンの腹から流れる。
「――――――、」
息を呑んだ、アイアンメイデンから出て来たのは、黒いゴシック服を着た、銀髪の少女。
いや、少女と言う言葉は失礼だ、背は俺より少し下か俺と同じくらい、俺を見つめてくる瞳は蒼く澄んでいる。
肌は白く触れれば押し返しそうな弾力と艶があり、一目見れば男性を魅了としそうなその色気は、少なくとも俺の心を擽った。
「アイアンメイデン、盟約の元に、この身を此の世に現象現物いたします」
「な……こ、」
「おう、見たか息子よ、これがアイアンメイデン、真の姿、アイアンメイデンなのだ」
―――。
――――――。
――――――――。
―――ハッ。
余りの衝撃に意識が失ってた。
つーか何なんだこの麗人は、まるで精霊、いや、現代に舞い降りた妖精じゃないか。
「アイアンメイデン、その正体は精霊だ」
あ、本当に精霊だったのか。
「さあって、アイアンメイデン、見たとおり、このヤンキーっぽい奴が、お前の婿だ」
「――――、」
あれ? 何故か知らないけど睨まれてる?
何でだ?俺睨まれてる事してないのに。
「万丈さん、この金髪、私嫌いです」
―――。
―――――。
――――――――。
―――ハッ。
また一瞬意識が飛んだ、今度は凄い酷い事言われたぞ。
会って間もない少女に、嫌い、と言われた。
ついでに言えば万丈とは俺の親父の名前、雨月万丈、何故かかっこいい名前と思うのは俺だけか。
「だって、私の事を、拷問器具とか、ひんにゅーしりがない、挙句の果てには包容力が無い、これ以上の屈辱、ありえないを取り越して串刺しにしたいです」
いやだって、普通アイアンメイデン出されたらそう思うしかないじゃないか。
「それに、魔力も何も感じません、本当に万丈さんの息子さんですか?」
いや、魔力って、魔術師とかそういう類の話か?
ならしょうがない、俺は親父が魔術師だと聞いたのは今日だからな。
「まあ……一応は俺の息子だ、自慢なんぞできやしないが、芯が通る立派な息子だよ」
…………親父、そこまでいうなら自慢してくれよ、いや、して欲しくないけど。
少女、アイアンメイデンは大きく溜息を付くと、「しょうがない」の一言で済ました。
「さて、と、後は若いお二人さんに任して、俺はそろそろ出かけるよ」
「でかけるって、何処に?」
「ロンドン、あそこは隠れ家が多いからな、実の所、未だに同僚の魔術師に追われているんだよ、俺は」
そう言えば、親父が魔術師と公言した後に、魔術師に追われている、と言われていたが………。
「安心しろ、『隠蔽』のルーン文字は体に刻んである、あ、ルーン文字ってのは………魔法の文字って覚えとけ」
親父はソファに掛けてあった黒いコートを身に纏い、そのポケットから三つの封筒を俺に寄越した。
「お守りだ、一応何かあったらそれを開けな、きっと役に立つ」
「あ―――な、なあ、また家に帰って来る、よな?」
「――――――なあに、心配すんな、しばらく家を開けるだけさ、また、お前の所に顔を出すよ」
ボストンバックを手に、親父は家を出た。
残った俺とアイアンメイデンは、これからどうなるのか、話し合うことにした。
あれ?何でシリアスになってんだ?