夫婦喧嘩は犬も食わない(1)
この作品は、響の本宅HPのトップページにて、切り番を踏んで頂いた方からのリクエストを基に作成しております。
※夫婦喧嘩は犬も食わない
「ママ、お帰りっ!」
「な、なんだ?また、何かおねだりかっ!?」
仕事から帰って来た俺は、玄関先で旦那似の可愛い双子の娘に、満面の笑みで迎え入れられた。
しかも、両サイドで、優奈と紗奈が俺の腕を片方ずつホールドされた。
二人がこうして出迎えるときは、だいたい、『アレ買っても良い?』『これ欲しいの!』というおねだりをする時だ。
普通、娘は親父にするもんだし、男親の方がデレ甘で女親に内緒で買い与える…と、いうパターンが多いみたいなんだが。
うちはまず、父親に欲しい物と欲しい理由をプレゼンしてOKがでたら、俺に話を持ってくる。最終決定権は俺。
アキラの立場が俺より弱いってわけじゃない。
俺が仕事でなかなか娘とコミュニケーションがとれねえから、アキラがそうやって俺と娘たちが話できるように取り計らってくれたんだ。
それに、八歳を過ぎてちょっと、ませてきた娘たちの巧みなおねだりに、アキラが何でもかんでもOKしちまうんだよ。
「あのね、もうじき、わたしと紗奈の九歳のお誕生日でしょー?」
「それでね、優奈と相談したのー」
「「で、欲しいプレゼント決めたのーっ!」」
あと十日もすれば、優奈と紗奈の誕生日。だから、欲しいプレゼントを考える様に言ってあったんだ。
「…って事は、欲しい物は同じってことか?」
「「そーなのー」」
「アキラはOK出したのか?」
「「パパも欲しいってー」」
廊下を歩きながら、綺麗なユニゾンを奏でて肯定する娘と共に、リビングダイニングに入れば、アキラがでかい体にエプロン着けて俺の夕食を並べている。
「お帰り、蓮」
今日は、鮭のムニエルかー…って、ちょっと待て。さっき、優奈と紗奈が変なこと言ってなかったか?『パパも欲しい』って、どういう意味だ?
考えていたら、アキラが寄って来て、恒例のハグと『ただいまのチュー』をする。
娘の前だろうが、結婚八年越えていようが、喧嘩中だろうが、アキラはこれだけは絶対止めない。俺も、阻止することはとうの昔に諦めた。
「ただいま。アキラ、優奈と紗奈の欲しい物ってなんだ?」
「なんだ、まだ言ってないのか?」
「今から言うところなの」
「あのねママ、優奈たち、弟が欲しいの!」
目をキラキラさせながら、優奈と紗奈が俺の答えを求めて見上げている。
「あのな、欲しいって言って、ホイホイ家に連れて来れるもんじゃねえぞ」
「パパ、何とかするって言ってたー」
「すぐは無理だけど、優奈と紗奈が良い子にしたら、お家に来てくれるって言ったもん!」
何て軽いこと言ってんだ、うちの亭主はっ!
俺が二度と子供は産まねぇって、優奈と紗奈を産んだ時に言ったの忘れたのか!
とりあえず、アキラへの怒りは後で、当人にぶつけるとして、娘たちにはそれを見せる訳にはいかない。
「優奈、紗奈。赤ちゃんはそんなに簡単にお家には来てくれないんだ」
「「えー」」
二人は不服そうな顔をして俺を見る。
「赤ちゃんじゃなかったら来てくれるの?」
「みんな、お母さんお腹の中から赤ちゃんとして生まれて来るんだ。優奈と紗奈だって、俺のお腹から生まれたんだぞ」
「ママのおなか?」
「そう。俺のお腹を切って産まれたんだ。俺のお腹に傷があっただろ?」
「ママ、お腹切ったの?!」
「ママ痛かった?」
「痛かったし、苦しかったぞ。血もいっぱい出たしなー」
「「だめーっ!」」
同時に二人は俺に抱きついて来る。