未来のアナタに一言物申す!
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実の所、結婚後、俺は何度も別れてやろうと奮闘したが、アキラはしぶとく俺の隣で旦那をやっている。
五年以上、足掻き続けたが、アキラに勝つのは不可能だと悟って離婚はもう完全に諦めた。
アキラに良く似た容姿の双子の娘たちは、残念な事に俺に良く似た粗雑な性格になってしまったけれど、アキラはそれが可愛いと娘たちにベタ惚れだ。
俺はアキラに勧められ、出産後、製菓学校に通って念願のパティシエになった。
そして、憧れていたパティシエの元で修行して一人前になり、結婚十年目を迎えた今年、四十路になったと言うのに衰えることない奴の性欲のせいで、俺は現在第三子となる息子を妊娠。
来月には、我が家に新しい家族としてやって来る。
「パパー、優奈の髪留めがないのーっ!」
「パパー、紗奈の髪留めもないーっ!」
「優奈のは、お部屋のピンクの箪笥の上!紗奈のは洗面所!早く準備しないとバスに乗り遅れるぞ!」
「「ありがとー!」」
バタバタと家の中を走り回る娘二人にそう叫びながら、アキラはいそいそと可愛らしいお弁当を包む。
俺はそれをリビングのソファに座って見守る。
これじゃあ、俺とアキラ、どっちが母親か分からないな。
「「パパ、お弁当頂戴ーーーっ!」」
ユニゾンで叫びながら廊下から玄関へ走っていく娘たちへ、アキラは手慣れた様にお弁当を渡す。
「気をつけてなー」
「「パパ、ママいってきまーす!」」
「おう、いってらっしゃい」
慌ただしく小さな嵐達が去っていき、我が家の朝の恒例行事が終わる。
アキラは家の前で娘たちを見送ってから部屋に戻って来ると、大きくなった腹を撫でる俺の座っているソファの隣に腰をかける。
「我が娘ながら、落ち着きねぇなぁ…」
「賑やかで良いじゃないか…どうした?腹が張って苦しいのか?」
「ちがう。ちびが姉ちゃんたちの声に触発されて、腹、ガンガン蹴ってるだけ」
「そっか。お、蹴ってる。元気だなー、姉ちゃんたちと遊びたいのか、お前」
俺の腹を撫でながら、アキラが嬉しそうに笑って腹の中の子供に声をかける。
意外に子供好きで、子煩悩なアキラに、俺は自然に唇が緩む。
身重の妻を過保護なくらい甲斐甲斐しく世話し、娘の面倒も見ながら、生まれてくる息子の為の準備に余念のない夫の姿に、奴が旦那で良かったと思う様になった。
というか、女の欠片もない俺を嫁にしてくれるような変わり者は、アキラしかいない。
嫌がりもせず、むしろ嬉々として完璧に主婦業やってくれる旦那も、他に絶対いないし。
安定した証券会社の仕事を俺に黙って辞めて、オカマキャラで料理研究家として本を出すは、テレビに時々出るわ…自由気ままなアキラを受け入れられるのもたぶん俺だけだ。
こいつが全面的に子育てと家庭の事を請け負って、製菓学校へ行けと背中を押してくれなかったら、俺は本当になりたかったパティシエの夢も諦めていた。
悔しいけど、実は俺の為に会社を辞めて、俺がすべきことをアキラが全部してくれたから、今の俺がある。
感謝をしてもしきれない。
「…アキラ、ありがとな」
十年で数えるほどしか言った事のない台詞を口にすれば、アキラは驚いた様に顔を上げる。
「どうしたんだ、急に」
「んー。何か言いたい気分だった?」
「何で疑問形?」
「…照れくさいんだよ。察せ」
こっちは恥ずかしいのに、アキラの奴、にやって笑いやがった。
「分かってるよ。蓮のそれ、俺のこと愛してるって意味だろう?」
「ばっ!あんたはっ!言葉通りにとれっ!感謝だよ感謝!そんなだから、好きとかありがとうとか、言いたくても言えねえんだよっ」
あ…しまった。ぼろっと本音が出ちまった…。
アキラは、頬染めて両手で自分の頬抑えてムンクみたいな顔をする。
「んまーっ!この娘、食べちゃいたいくらい可愛い事言うじゃないのっ!」
「ば、ばかっ!俺は妊婦だっ!」
思春期の娘を前になりを潜めていたオカマ口調全開で、身重の俺をソファに押し倒そうとした不埒な男を、押し退ける。
元々、『職業オカマ』だったアキラは、普通の女が好きな男だった。しかもどうやら、他の男に比べて性欲が強いらしくて、俺の妊娠後は何かと欲求不満らしい。
色々抜いてやってるのに、直にやりたいとか、妊婦の俺に平気で迫ってくる。
結婚してから毎日毎日、アキラが揉む所為で、俺のささやかAAの胸がBになったんだぞ!妊娠中の今なんて、奇跡のDカップだぞ!
重いわ邪魔くさいわ肩凝るわ、世の巨乳のお嬢さんの苦労がちょっと分かっちまったじゃねえかっ!
好い加減、性欲減退しろっ。
「分かってるわよー。だから、我慢してるのよー。これくらい許しなさいっ」
アキラはため息交じりに俺の身体を抱きしめる。勿論、腹に負荷をかけない様に気を使ってくれている。
「早く生まれないかしらー。この期間だけが、しんどいのよねー。早く直に蓮を感じたいわぁ」
「…うげっ…根性でしがみ付け。出来るだけ出て来るの引き延ばせ、坊主」
「何言ってるの!子供が大きくなり過ぎたら、産む時にあんたの身体に負荷かかるのよっ!息子よ、パパにもママにも優しい子におなりっ!」
両親が勝手な事を言うせいか、腹の息子は途端に動きを止めて静かになる。
空気を察する所は、我が息子ながら上出来かも。
「早くても遅くてもどっちでも良いから…無事に産まれて来い。大事にしてやるから」
俺の事を心配しながら抱きつく旦那を無視して、俺が折れて、腹を撫でて息子にそう語りかけると、ぽこりと腹を内側から叩く感覚がある。
「よしよし。ちゃんと母さんの言うことに返事が出来る良い子だ」
「…なんだか、産まれたら息子に蓮をとられそうだわー。やっぱ、目いっぱいお腹の中に居て欲しいわー」
「…あんたはホントに、自分勝手だな」
「息子でも、男は男。蓮に纏わりつく俺以外の男は、みんな敵」
…産まれてもいない息子にどんだけ対抗意識燃やしているんだ、うちの旦那。
新婚ならいざ知らず、十年も夫婦やってるんだから、そろそろ俺に興味なくしても良くないか?他所の家はとっくに、倦怠期突入だぞ?
アキラの奴、人前でも平気で俺にキスするから、「西條さんのお宅は、何時もラブラブねー」なんて、近所の人に生ぬるーい、痛いモノをみる目で見られるんだよ!
「…狭量の束縛男は嫌いだって言ってるだろ…また家出るぞ」
昔、何度も娘連れて家出した時の事を思い出したのか、アキラはせっかくの綺麗な顔を台無しな表情でアレンジした。
しかも、結構ダメージ入ったのか、放心状態になってる。
変な所で打たれ弱いよなぁ…何年経っても、面倒くさい男…
「朝ごはんにジャコと紫蘇の入った卵焼き付けてくれたら、許してやっても良い」
「すぐ作る!」
そう言って慌ててソファから立ち上がり、キッチンに向かったアキラの背中を見送る。
何だかんだ言って、アキラは娘よりも何よりも、俺に一番甘い。
難あり過ぎな男だけど、俺にとっては一応、最高の旦那なんだよ。
何回も離婚危機迎えても、その度に思い直すくらいには、アキラを愛しているんだよ。これでも。
幸せだって、思ってる。感謝もしてる。
本人には恥ずかしくて、こんなこと、素面じゃほとんど言ってやらないけどな!
時々なら、言ってやらなくもない。酔っぱらったふりした時とかな!
-END-
コレにて、たくましい彼女!ENDとなります。
閲覧、お気に入り登録、評価下さいました皆様、ありがとうございます。
自分の見た夢を元ネタにした小説ではありますが、私がみた夢は、一話目の内容がほぼそれになります。主人公の言葉遣いはもっと丁寧でしたけれど(*_*;
二話目からは、完全脚色オリジナルシナリオ(笑)
そもそも私に、兄はいないので何故このような夢を見たのかは謎のまま。
あ…兄貴の存在消えちゃいましたが、リン兄貴は蓮ちゃんラブのシスコンなので、アキラにお嫁に取られてハートブレイク。
アキラはまんまと蓮をリンから奪い、結婚式で打ちひしがれる義理の兄となったリンを見てほくそ笑むという、復讐劇をちゃっかり果たしております。
たまにはこういう、おバカ全開なキャラを書くのも楽しくて良いですね。
下品なのがちょっと困りものですが…
アキラ視点とか、リン視点とか書いても良いかなと思いましたが、誰得な話だよ…ってなりそうなので、自重。
そもそも、需要があるかも謎ですし。
お読みいただき、本当にありがとうございました!
2012.10.03 響かほり