たくましいオネエの脱皮!(後篇)
R15相当の表現がございます。イヤンなかたは、バックでお願いします。
で、一緒に皿洗いして、終わって壁にかかっている時計に目を向けたミドリさんが慌てだした。
「もうこんな時間。そろそろ出ないと、出社前に家へ戻れなくなわね」
「…ミドリさん、会社勤め?」
「ええ。そうなの。△□証券って所なんだけど、ご存知?」
「え、一流企業!?俺、てっきりニューハーフのお店に勤めてるかと」
「あぁ、それは父が経営しているの。アタシは時々、そこを手伝ってるのよ。でも、本職は証券マンなの」
「だから、普通に男口調もいけるんだ」
「ええ。今度、お名刺差し上げるわね」
こ、今度って、この人、また来るつもりなのかっ!?
俺が渡した紙袋に、昨日着ていた服一式を詰め込んで、ミドリさんはバタバタと玄関に向かう。
ミドリさんを連れてきた張本人は、起きて来る気配がないので、俺が見送る為に玄関まで一緒に行く。
「あ…パンプス」
大事な事忘れてたっ!靴!ハイヒール履いては流石に帰れない。
下駄箱から、兄貴の靴を適当に幾つか出す。
「履けそうなの適当に選んで履いて」
ミドリさんは服装に合わせた靴を選び、それを履く。
「ちょっと大きいけど、まあ、大丈夫みたい。後日、服と一緒に返しに来るわね。試験前なのに、色々、面倒かけてごめんなさいね」
「こちらこそ、愚兄が面倒をかけました」
馬鹿兄貴め…今日の昼は、兄貴の嫌いなピーマンだらけのチンジャオロースでお仕置きしてやるっ。
って、考えていたら、なんか目の前が暗くなった。
ん?って、思って顔を上げたら、何か唇に柔らかいモノが触れた。
目の前に、なんかミドリさんの美顔ドアップが見える…
ホント、三十代の男に綺麗とか失礼なんだろうけど、間近で見ても美術品みたいに綺麗だなこの人。
「俺、本当の名前、翠って云うんだ」
少し離れた美彫刻…じゃない、ミドリさんが男口調でそう本名を告げる。
何でこの人、捕食者の眼差し?ってか、俺、さっき何かされたよな?
「翠って呼んでみて、蓮」
バリトンヴォイスが甘さを纏って、背筋がザワザワして思考を遮断させる。
「…あきらさん?」
「蓮、どうして君はリンの妹なんだろうね」
「いや、どうしてと言われても…」
「俺はね、蓮。彬之介が嫌いなんだ。自分勝手で、ザル頭で自分の言動責任とれない癖に、そのしわ寄せ全部、周囲にまき散らして安穏とする要領の良さ…中学の時、何度、迷惑を被って殺してやろうと思ったことか」
「わ、分かる、その気持ち…」
毒々しい怒りを含んだ相手の気持ちは分かる。俺は十七年、この馬鹿兄貴の妹やってきて、何度も被害被っているんだから。
「最大の屈辱は、中学の頃にあいつに掘られて、不感症になったことだよ」
「そ、それは…ご愁傷様で…」
「だからね、あいつに復讐したいんだ…例えば、彬之介が溺愛して大事にしてる君が、俺にむりやり純潔奪われたら…リン、どういう反応すると思う?」
「…なにいってん、…んっ?!」
顎掴まれて、そのまま開いた口を塞がれた。
これ、キスだ!って、何で俺にキスしてんだこのおっさん!
「んん、んぅんんっーーーっ(なに、しやがるっーーーっ)!」
いつの間にか腰に腕まわされて身体は引き寄せられるわ、抗議しようとしたら、そのまま、ぬるっとした舌が俺の口の中に入って来て、思いっきり好き勝手に俺の口の中蹂躙しやがった!
兄貴に助けを求めようとしたけど、声を上げることすら出来ない。
息が出来ない所か、魂抜かれるかと思うぐらい吸われるわ、貪られるわ。制服の中に手突っ込まれて、フロントホックのブラを器用に外されて、俺の貧相な胸まで撫でるどころか揉みつくされて、俺、ホント死ぬ!
纏わりついて来る相手の舌に、俺は咬みついた。
「っ!」
驚いて相手は俺から離れる。
やられっぱなしなんて、俺の性にあわねぇっ!
「や…め…んっ、くそ…た、れ…」
キス初心者に、何て恐ろしい事するんだこいつ!
てか、オカマの癖になんで俺にチューするわ、こんなに手慣れてんだよっ!
酸欠で頭くらくらするし、直に素肌撫でられて体中鳥肌立って、ない胸を弄られて背筋ゾクゾクする。
「味見のつもりだったのに、本気になりそうだ」
唇が掠める至近距離で、ミドリ改めアキラが眼を細めて楽しそうに意味不明な台詞を囁いて、また唇を重ねてきた。
もう、さん付なんてしてやるか!
微かに血の味がするのは、俺が噛みついて傷が出来たせいなのか。
けど、罪悪感なんてない。何でまたキスしてんだ、この変態ヤローっ!また咬むぞっ!
なっ、スカートの中に手ぇ突っ込むなっ!ばっ!どこ触ってんだぁーっ!揉むな!撫でるな!穢れる!俺が穢れるっ!
マジで犯されるっ!兄貴ぃーっ!マジで助けてっ!!
俺半泣き状態で貞操の危機だけど、役に立たない兄貴はただ今夢の中。来る訳もない。
あぁもう!このセクハラ野郎!離せぇーっ!
気持ちはぶん殴ってやる気満々なのに、身体に力が入らなくて、がくがくして脚が崩れ落ちそうで相手に無意識にしがみついて。
脳に酸素が回ってないせいか、頭も体もフワフワして、眼が明けていられなくて、荒々しさのなくなった、啄ばまれるキスが気持ち良いとか思ってるしっ!!
胸どころか腹も、脚も…もう、余すところなく触れて来る男の手に、鳥肌とは違うゾクゾク感があってびくびく震える。
「ゃ…だぁ…っ、た…だ、ろ…」
触れられる合間に自分の口から洩れて来る、吐息みたいな、泣きそうで鼻にかかった舌っ足らずな声に心臓止まりそう。
こんなの、俺じゃない。恥ずかしくて、どうかなりそうだ。
「…兄貴と…同じ、下衆に…なって、まんぞ、く、なの…かよ」
リップ音を立てて離れた相手に文句言っても、声が上手く出ない。
「まさか。あれは、例え話。復讐は別手段でいくから」
無駄に良い声でしれっと何言ってるんだ、この美中年!頭に虫湧いてるのか?!
この状況は何だ!?俺、めっちゃ貪られてんじゃねえかよっ!
もがいてやっと奴の腕から解放された瞬間、俺は自力で立てなくて、ずるずるとその場にへたり込んだ。
「ふふっ、味見程度で腰砕け?初心で可愛いわー。アタシ、狙った獲物は逃さない性質なの。アタシ、蓮に一目惚れなのよー。もう、フォーリン・ラヴ!だから、じっくり狩って食べてあ・げ・る❤」
喰われるっ!狩られる!こいつ、眼がマジだっ!!
肉食獣さながらのギラついた瞳で俺を見下ろした相手に、俺はマジで震えた。
けど、ただ震えて怯える女だと思うなっ!
「っんの、ド変態クソ女装野郎っ!二度と俺ん家の敷居を跨ぐんじゃねぇっ!今度会ったら●●●潰してやるっ!」
「おほほほほほっ。そう言う男前な所も気に入ったわー。愛してるわ、蓮。またねー」
朝一番、下品な言葉を叫んで、俺はロクでもない客人へ復讐を誓ったが、アキラはあしらう様に、野太い裏声で高笑いをして去って行った。
俺には、行き場のない怒りだけが残された。
その日の試験中、覚えた英単語と、歴史年表の殆どを喪失していた事が発覚して、テストはボロボロ。推薦入試枠は貰えないわで、更にその怒りと復讐心が高まったのは言うまでもない。
そして、変なオカマに魅入られる羽目になった元凶の兄貴には、一週間、三食ピーマン尽くしのメニューで復讐し、止めて欲しくばアキラをどうにかしろと兄貴に始末をたきつけた。
が、一枚も二枚も上手だったアキラによって、俺は身体を美味しく頂かれた上、外堀固められて卒業二月前に、妊娠二ヶ月って事が発覚して大学入試を諦め、奴と入籍。
高校卒業と同時に、俺の知らない所で準備されていた結婚式を挙げて、新婚生活スタートと言う、恐ろしい結末を迎えた…。
ってか、どれだけ用意周到なんだよっ!
俺は認めないからなーっ!絶対離婚しやるーっ!